人の体内では、腎臓が2つの形でクロトーを生成している。細胞膜の一部になるタンパク質と、血中を循環するホルモンだ。このホルモンの濃度が高いほど、認知機能が高まり、アルツハイマー病などのリスクが下がることが判明している。
加齢に伴い、クロトーの濃度は自然に低下する。しかし近年、動物を対象に行われてきた研究では、クロトーの直接注射によって、記憶力を維持し、加齢に伴い低下した認知機能を回復できる可能性もあることが分かってきている。
クロトーは血液脳関門を通過しないとみられているものの、低用量のクロトーをマウスに投与すると、ワーキングメモリが増加し、神経の可塑性が高まることが示された。そして、ネイチャーで7月3日に発表された研究論文では、アカゲザルのクロトー濃度を高めたところ高次認知機能が向上したことが明らかにされ、人にも同様の効果があることが示された。
米エール大学のステイシー・A・キャストナー率いる研究チームは、サルが自然に分泌するホルモンとしてのクロトーを合成。その生物学的な効力を確認するため、まずは若いマウスに注射した。すると、わずか10µp/kgの低用量で、クロトーの血中濃度が対照群の6倍に達した。投与から4時間後、主に学習と記憶をつかさどる脳の海馬が大幅に活性化。単純な迷路の課題を終えた後、同じ課題を行った対照群に比べて、新たなシナプス結合がより多く観察された。ニューロン結合の増加は、学習および長期記憶の増加と一致することが知られている。
研究チームは次に、同じ10µp/kgのクロトーをサルの成体のグループに投与した。対象には人の45~85歳に相当する年齢のサルを含め、クロトーが加齢に伴い低下した認知機能を回復させられるかを判断できるようにした。
実験は3カ月にわたって行われた。サルたちは最初の1カ月で、通常程度の記憶力と高い記憶力を必要とする課題2種類を行う方法を学んだ。