とはいえ、この声がけに共感できる人ばかりではない。人々の心をつかんだサンドバーグのこのアドバイスに応えるかたちで、米コメディアンのアリ・ウォンは、こう皮肉を返した。「私は、前のめりになる(リーン・イン)より、横になりたいわ」と。
ウォンは、いいところを突いていたのかもしれない。というのも、睡眠時間が足りていない働く女性は、一歩を踏み出そうとする姿勢が薄れることが、研究で立証されたからだ。査読付きジャーナル「Sex Roles」に2022年10月1日付けで掲載された最新研究によれば、睡眠の質は女性の気分に影響を与え、責任の重い上の地位を目指そうという思いを変化させるという。一方、男性は睡眠時間の増減によって、仕事上の野心が変化することはない。
この研究では、フルタイム従業員を対象に、10日間にわたって1日2回のアンケートを実施した。参加者は午前中に、前夜の睡眠とアンケート回答時の気分を評価した。また同日午後には、職場でより上の地位や、より大きな責任、影響力を望んでいるかどうかを回答した。男女ともに、よく眠れた日とあまり眠れなかった日があり、平均的な睡眠の質には男女差がなかった。
男女差が生じたのは、睡眠が出世欲に与えた影響に着目したときだ。女性に限って言えば、十分に眠ったことで生じた、より前向きな気分と、「職場で上の地位やより責任のある仕事を望む気持ち」のあいだに関連性が見られた。睡眠の質が低いと気分が低下し、上を目指そうという目標をあまり持たなくなる。男性にはそうした作用が見られなかった。
仕事に対する野心と睡眠の関連性で男女差が生じるのはなぜなのだろうか。研究チームはこの疑問に対して、いくつかの可能性を挙げている。ひとつは、男性と女性では感情に対する反応が異なることだ。
男性は得てして、感情を抑制するよう教えられて育つので、気持ちをコントロールして野心を維持するのが比較的上手なのかもしれない。たとえ、あまり眠れず、翌日に気分がすぐれない場合であってもだ。それに対して女性は、ぐっすり眠れたことによる気分の高揚に反応しやすいのかもしれない。
研究チームはさらに、男性は野心的だと一般的に考えられている点を指摘した。そうした一般的認識があるため、睡眠不足であっても野心を失うわけにはいかないと感じているのかもしれない。