マクドナルドやウェンディーズ、CVSヘルスらは、アリゾナ州に本社を置く評価額が15億ドル(約2140億円)のAIスタートアップ企業Paradox(パラドックス)が開発したチャットボットのOlivia(オリビア)を使用している。ロレアルのような他の企業は、サンフランシスコを拠点とするMya(マイア)という企業の同名のチャットボットを利用している。
ほとんどの採用チャットボットは、ChatGPTのような高度なものではなく、主にレジ係や倉庫係、カスタマーサービスなどの仕事の採用希望者の選考に使われ「フォークリフトの使い方を知っていますか?」や「週末に働けますか?」といった初歩的な質問をする。
しかし、これらのボットにはバグが多く、途中でフリーズしてしまう場合がある。さらに、ボットが常に明瞭な答えを求めることから、障がい者や英語が堪能でない人、年配の求職者らを不利にしてしまう可能性があると専門家は指摘している。米国雇用機会均等委員会(EEOC)の上級弁護士顧問のアーロン・コノパスキーは、オリビアやマイアのようなチャットボットが、障害や持病を持つ労働者を不利にすることを懸念している。
人種や性別の差別を助長する可能性
また、差別も懸念事項の1つだ。AIを訓練するために使われるデータには、人種や性別に関する偏見が植え付けられている可能性がある。政府当局は最近、採用ツールにおける自動化の利用を監視・規制する法案を提出した。ニューヨーク市は7月上旬、履歴書スキャナーやチャットボット面接のような自動化ツールを使用する雇用主に対し、そのツールに性別や人種の偏りがないか監査することを義務づける新法を制定した。それでも、採用コストの削減を目指す企業にとって、AIを用いたツールの導入は、当然の選択肢のように思える。人事部門は、人員削減が真っ先に行われる場所の1つである場合が多いと非営利団体(NPO)の「センター・フォー・デモクラシー・アンド・テクノロジー」で上級政策顧問を務めるマシュー・シェラーは述べている。
シアーズやデル、ソニーなどの大手企業にテキストベースのAIチャットボットを提供する企業Sense HQの共同創業者のアレックス・ローゼンは、フォーブスに対し次のように述べた。「そもそもこのチャットボットを開発したのは、採用担当者が自分たちだけで行うよりも、より多くの求職者と対話できるようにするためです」
一方、同業のRecruitBot(リクルートボット)は、さまざまな経路で入手した6億人の求職者のデータベースを機械学習でふるいにかけ、企業が現在の従業員に似た求職者を見つけるのを支援している。「当社のツールは、ネットフリックスが、あなたが好きな映画に基づいて他の映画を推薦するようなものです」と、同社の創業者でCEOのジェレミー・シフは述べている。
しかし、ここでもAIのバイアスは懸念事項になる。2018年にアマゾンは機械学習ベースの履歴書追跡システムの利用を停止したが、その学習データはほとんどが男性の履歴書で構成されていたため、女性を差別する傾向があった。