クレイ:実際に何社くらいからの寄付があったのでしょうか。
大出:私が回った2年間では延べ130社以上です。お話をさせていただいた数でいうと400社くらいにのぼります。地元北海道の企業だけでなく様々な都府県を歩きました。ご寄付いただく理由は、北海道の発展に貢献したい、北海道のいろいろな企業と繋がりをもちたいなど様々ですが、私としてはこのご縁から生まれるいろんな可能性をお話しして、共感していただければ参加をしてほしい、とお話しをしています。思いを共有することは大事で、企業さんからの紹介で数珠繋ぎに賛同していただくこともあります。
あとは実際に北海道スペースポートを見てもらうことで、寄付の意義を感じていただいています。
クレイ:これだけの額を集められたのは、間違いなく民間企業であるSPACE COTANが加わったことにありそうですね。
大出:民間のノウハウが活きている部分もあるかもしれませんが、この結果は決して私たちの力だけではなくて、大樹町さんが「宇宙のまちづくり」を1985年から40年近くも継続してこられたこと、そしてそれをずっと応援してきた行政や団体、個人や企業の方がたくさんいるからです。そういった人たちの輪と40年の歴史の上に、北海道スペースポートは成り立っていると思います。
大樹町に「宇宙版シリコンバレー」を
クレイ:ところで、もともと「宇宙事業は社会の何の役に立っているんだろう?」とお考えだった大出さんが、どうやって宇宙の可能性を説いて回るお立場にまでなられたのですか。
大出:不思議に思われますよね(笑)。私は、前職はゼネコンの大林組に所属していました。東日本大震災を経たこともあり耐震分野の研究を行っていたんですが、いろいろ新しいアイディアを出すことを評価されて新規事業創造の部署に異動になったんです。そこで将来性のあるものとしてAIやブロックチェーン、宇宙について調べ始めました。
AIやブロックチェーンはプログラミング言語の世界なので、プログラマー人口の少ない日本は中国やアメリカといったお金やマンパワーをかけられる国には勝てないと思ったんです。でも宇宙なら日本にも大きな可能性があると感じました。特に地理的優位性は世界的に見ても強みでした。
クレイ:どういうことですか?
大出:ロケットは東か南か北のいずれかに打ち上げるのですが、これらが海で開けている・隣の国や島がないことが必要です。ほとんどの発射場はどちらか一方向しか海に開けていませんが、東と南が太平洋に面した日本は、一か所から様々な方向にロケットを打ち上げることが可能で、圧倒的優位なんです。
それを理解してから大林組の中で宇宙分野の研究をするようになり、大学や民間企業の方とロケット打ち上げのための共同研究に関わっていきました。民間ロケット事業者のインターステラテクノロジズ(IST)の方ともこの流れで知り合いました。
クレイ:「宇宙」をフィールドにした仕事への迷いはなかったですか?
大出:実は結婚したのが2020年2月で、8月には東京に35年ローンでマンションを買ったばかりでした。第1子が生まれることも分かっていたので“このタイミングか!”と少しだけ悩みましたけど、即決に近かったです。妻には、家には必ずお金を入れることを約束し、その約束が守れなくなったら辞めるのでチャレンジさせてほしい──と。もともとサラリーマンで終わるのは嫌だな、ということは話していたこともあって、妻は比較的ポジティブに受け止めてくれました。