やらずに後悔するより、やって後悔したい
岩佐:小山さんは映画の脚本を書いたり、くまモンをこの世に生んだり、割烹を経営されたりしている。やること全てが必ずかたちになるって、本当にすごいです。小山:いや、全然そんなことなくて。そもそも頼まれた仕事が多いんですよ。もちろん、引き受けるからには誰かがハッピーになるよう、全力で頑張りますが、岩佐さんのような想像を絶する荒波に乗り出すことは、自分には絶対にできない。いつも用意された船に乗っています(笑)
岩佐:でも、自分事ではないのに実績を出せるのは、相当真剣だからでは?
小山:頼りになる人が周りにいてくれるからですね。ただ、子どものころから父に「やらずに後悔するより、やって後悔した方が、人生は絶対に楽しい」と言われていたので、やるかやらないかの選択肢があると、いつも「やる」を選んでしまうのかも。
岩佐:手痛い失敗とかあるんですか?
小山:もちろん!(笑)例えば東京タワー内につくった「東京カレーラボ」。東京カリ~番長という出張料理ユニットにレシピを提供してもらったのですが、非常に本格的なスパイスカレーなので、安くて早い飯を欲している人にはウケなくて。それで食品会社からルーを買ってつくるようになったら、特徴のあったカレーが一気に凡庸になり、結局潰してしまいました。やはり自らが信じた道を突き進むことが大事。マーケティングに惑わされて妥協点を見つけてしまった時点で失敗する、と学びました。
岩佐:やりたいものを突きつめたほうが、失敗しても諦めがつく。小山さんのお父さまの言葉に通じますね。(次号に続く)
今月の一皿
岩佐が昔よく通った「中華シブヤ」の「トマトキムチ」を再現。コチュジャンの旨みとリンゴの甘みが絶妙な逸品だ。blank
都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。
岩佐十良◎1967年、東京都生まれ。自遊人代表取締役。武蔵野美術大学在学中にデザイン会社を創業。2000年、雑誌『自遊人』を創刊。04年、新潟・南魚沼に移住。雑誌、農産物販売、宿泊施設の経営などを通して、地方都市の地域活性化にも尽力する。