食&酒

2023.06.03

新旧融合のために必要なもの|大林剛郎×小山薫堂スペシャル対談(後編)

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、大林組取締役会長の大林剛郎さんが訪れました。スペシャル対談第8回(後編)。
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小山薫堂(以下、小山):
大林さんがアートに興味をもったのはいつですか?

大林剛郎(以下、大林):最も古い記憶は、洋画家・川島理一郎の「ヴェニスの嘆きの橋」です。祖父は川島の支援者で、父がその作品を自宅に飾っていました。個人的な体験としては、小学生のときに父がアメリカ出張で買ってきた、ジャクソン・ポロックの絵のジグソーパズルですね。

小山:小学生の息子にお土産で?

大林:ええ。アクションペインティングで描かれた抽象画なので、完成させるのが大変だった。高校の時には美術部に入って、高校生対象の展覧会にエッチングを出したのですが、見事に落選して(笑)。その時に私はアーティストじゃないんだなと気づいたんです。むしろ見るほうなんだなと。

小山:そしていまでは現代美術のコレクターになったわけですね。作品を選ぶとき、大林さんは直感を大事にされますか?

大林:いや、グローバルに誰がどのように活動し、どのように評価されているかは、すごく勉強しています。

小山:自分としてこのテイストは好きではないけど買う、ということは?

大林:それはないですね。自分が好きであることが前提です。

小山:初期には安藤忠雄さんのドローイングを集めていたそうですが。

大林:安藤さん、高松伸さん、アルド・ロッシなどの建築のドローイングを個人的興味から収集していました。でも、建設業にたずさわる自分がコレクションすると、どうしても仕事と関係があるように見えてしまう。しかも同時期にMoMAのインターナショナル・カウンシルのメンバーになったところ、日本の現代美術についてよく質問されるようになって。だったらそういう作品を私が収集し、紹介する義務があるのではないかと思い、日本の現代美術について勉強しはじめました。

小山:ちなみにいま、神様がやって来て「お前の好きな作品をプレゼントしよう」と言われたら、何が欲しいですか。

大林:ピエト・モンドリアンの「コンポジジョン」でしょうか。70億円という価格もそうだけど、美術館が収蔵したので、残念ながら手は出せませんけどね。
(左)小山薫堂(右)大林組代表取締役会長の大林剛郎さん

古いだけだと「ローマ」になる

小山:最近行ったレストランで印象に残った店はありますか。

大林:金沢のスペイン料理店「レスピラシオン」です。シェフは石川県生まれの幼馴染み同士で、そのうち2人はバルセロナでの修業経験がある。料理は地産地消を目指して、蝦夷鹿以外はほとんど地元の食材を使っている。建物も築140年の町家をリノベーションし、インテリアや装飾も地元の会社を使っているんです。

小山:古くてよいものを残しながら、新しい文化をミックスしている。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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