食&酒

2023.06.03 17:00

新旧融合のために必要なもの|大林剛郎×小山薫堂スペシャル対談(後編)

Forbes JAPAN編集部
大林:そうです。金沢は現代美術もあれば伝統工芸もあるし、古いお茶屋さんもあれば最新の味を提供するレストランもある。コンパクトな街に新旧さまざまな文化が混在しています。これもきっかけはアート、2004年に開館した金沢21世紀美術館なんですよ。そこから新しいものを取り入れてきたことによって、金沢の魅力は何倍にもなった。やはり古いだけだとローマになる。古いだけだと一度で「もういいや」になって、再訪してもらえないんです。

小山:隈研吾さんも、1800年代建造の元倉庫をリノベーションしたデンマークのレストラン「noma」を例に、「古いものは新しくつくれない」とおっしゃっていました。新しい建物を建てる際、周辺の街並みや刻まれてきた時間と融合させるために何が大事とお考えですか。

大林:ひとつは「素材」です。例えばコンクリートやガラスは新しい素材、石や木は伝統的な素材のイメージがある。ヨーロッパの建築でいまでも石が多く使われるのは、そのあたりを考慮しているからです。もうひとつは「議論」。日本は古い建物が戦争で焼けたり、戦後に壊してしまったわけですが、それ以上に日本人は「古いものを残す」というと、まったく使わせないようにして徹底的に保存する、という考古学的な発想のままなんです。

小山:文化庁が「保存から活用の時代へ」と言っているわりには、結局、消防法などに阻まれたりしますよね。

大林:そう。欧米のように「使う」ことを基本に、どこまで改装するのか、どこまで残すのかを、徹底的に議論すべきです。古いもの、歴史あるものとともに暮らした先にこそ、街の価値や地方の文化度の向上があるように感じています。

今月の一皿


大林グループのフレンチレストラン「ルポンドシエル」で、コースの最後をしめる小山薫堂発案の「ハムピラフ」を再現。

blank

都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。

大林剛郎◎1954年、東京都生まれ。大林組取締役会長。慶應義塾大学卒業後、大林組に入社。2009年より現職。アートに造詣が深く、森美術館理事、原美術館評議員、英テート美術館や米MoMAのインターナショナル・カウンシル・メンバーを務める。

小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。企画・脚本を担当した映画『湯道』が全国公開中。2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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