国内

2023.07.31 11:15

「エレベーター広告」で売り上げ2倍も 新興が生むターゲティング新手法

露原直人
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効果的なターゲティングが可能

マンションでのサービス展開は広告のターゲティング面で大きな利点がある。物件概要から推定する入居世帯の年収や、おおまかな家族構成などをターゲティング要素とすることができる。実際に「MIAGERU」を導入した大手デリバリーチェーンは、広告配信エリア店舗の月間売り上げが昨年対比2倍となるほどの広告効果をあげたという。

現在、日本のエレベーター台数は約90万台と言われ、その約8割を三菱・日立・東芝・日本オーチス・フジテックが保守している。製造から保守まで行う5大メーカーが占める業界ということもあり、mark&earthはフジテックと2019年に業務提携を果たしている。

「フジテックの保守するエレベーターは、全国に約10万台あります。そう考えると、mark&earthは約10万台のデジタルサイネージを設置することができるポテンシャルを持っていると言えます。私たちは広告をエリアや年齢層、年収層に分けて出すことはもちろん、学生向けマンションやペット可の物件のエレベーターだけを選別することも可能です。今のところ、全国のペット可だけの物件に広告を出せる媒体はありません」

コロナ禍でさまざまな広告を試して効果検証を終え、新しいターゲティングの手法に注目しはじめた企業が、こうした可能性に注目し始めているのだという。今後は設置するデジタルサイネージに人感センサーや防犯カメラを内蔵させることで、エレベーター内のセキュリティ面での寄与も目指すほか、提携先のフジテックが本社を構える関西への進出も予定する。

ホームレスから再起し、事業立ち上げ

ただ、金子京史は「中国で盛り上がっているから、ビジネスとしてロジックがあったから、この領域に参入したわけではありません。」と話す。

金子がエレベーター広告をひらめいたのは、30歳に差し掛かろうとしたとき。とあるベンチャー支援の企業に4人目の役員として参画したものの、思いもよらぬトラブルに見舞われたことがきっかけだった。

「当時はいきなり役員が3人ともいなくなり、1人で残務処理をしなければならなくなりました。結局、数千万円だまされた格好で、一時はホームレスにもなりました」


金子には心に焼き付いて、今も忘れられない当時の光景がある。土砂降りの雨が容赦なく降り注ぐ中、無一文で下を向いて1人トボトボと歩いているときのことだ。身も心もズタボロの状態だったが、やがて豪雨がうそだったかのように止んで日が差してきた。

「夕立が止むと、空には綺麗な夕焼けが広がりますよね。それをボーっと見上げていたとき、直感的に『大丈夫だ』『まだやらなきゃいけないことがある』という感情が湧き上がってきました」

人間は下を向いている状態よりも、見上げた状態の方が口角が上がり、自然と笑顔に近い表情が作られる。夕立後に顔を出した大きな太陽を見上げ、その事実に気づいた金子は同時に、エレベーター広告は、たくさんの人が自然と見上げるきっかけを作れるのではないかと思いついたという。

「だから、サービスは『MIAGERU』という名前なんです」

どん底から思わぬ形でビジネスの種を見つけた金子は、パワーポイントで自作した資料を手に、不動産管理会社にテレアポや飛び込み営業を繰り返した。

手応えのない時期も続いたが、今では広告主からの出稿依頼だけでなく、広告代理店から「会社としてエレベーター広告の販売を強化したい」との声も出てきている。

「今年の目標はまず導入台数で1000台を突破すること」と金子。千里の道を一歩ずつ歩みを進めている。

取材・編集=露原直人 文=小谷紘友 撮影=林孝典

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