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2023.08.05 12:30

人間同士の絆を深めるイタリア料理、 その魅力を日本に伝える伝道師

シェフ カルミネ・アマランテ氏

シェフ カルミネ・アマランテ氏

イタリア語で“赤い海老”を意味する「Gambero Rosso(ガンベロロッソ)」は、イタリアのグルメ専門出版社。雑誌やガイドブックが世界の美食家に支持されているが、その国際版は毎年イタリア国外の優れたイタリア料理店とシェフに独自のアワードを授与している。それはいわば“イタリア人が選ぶイタリア料理版ミシュラン”。

なかでも2022年、世界中から年にひとりだけ選出される年間最優秀シェフ「The Chef of the year」に選ばれ、エグゼクティブシェフを務める銀座の「アルマーニ / リストランテ」に、ミシュランの三ツ星に相当する最高評価「Tre Forchette(3本フォーク)」をもたらしたのがカルミネ・アマランテだ。「イタリア国外で最もイタリアらしい味」と評された料理を生み出す若きシェフは、果たして“イタリアらしさ”をどうとらえているのだろうか。

人間味あふれる料理への取り組み

「私の故郷である南イタリアでは、昔から家族を大切にする文化が根付いていました。そのため、イタリア料理も家族で一緒に食べるという感覚がトラディショナルになっています。そして私にとっても、母や祖母がつくり、みんなで食べた温かくおいしい家庭料理こそがイタリア料理なのです」

なによりも家族を重んじるイメージがあるイタリア。それは家族経営の店舗・企業が多いことや親との同居が当たり前な社会を見てもわかるが、イタリア料理に関してもいわゆる宮廷料理から発展したフランス料理とは異なり、市井の人々が親しんできた家庭料理がベースとなっている。そんな社会の基盤としての家族は、アマランテにとっても、またイタリアの魅力をひも解くうえでも不可欠なキーワードといえそうだ。

「イタリア料理にもさまざまなシェフがおり、当然それぞれが違うと思いますが、私は料理をつくるとき、イタリアで暮らした日々の思い出を一皿に込めます。それがなければ、私は料理することができないといっても過言ではないのです。だから私の料理には、母や祖母の味を感じるでしょう。現在の料理は日本の食材を約9割使っており、イタリアとまったく同じ味ではありません。ですが、日本の食材のよさを生かしつつ、自分らしさとイタリアらしさを大切にし、日本のお客様はもちろん、イタリア人が食べても納得してもらえる味を目指しています。それが私のスタイルなのです」

家族と過ごした楽しい思い出を、一皿の料理に込める─。こんな人間味あふれる料理への取り組みこそ、アマランテの料理が人々を魅了するゆえんに違いない。その思い出のベースとなっている“マンマの味”は、日本でいうところの“おふくろの味”である。

だがわが国では、高度経済成長と引き換えに進んだ核家族化によって受け継がれにくくなったのに加え、外食や中食の普及により、昔ながらのおふくろの味は薄れつつある。また核家族や共働き、少子化などを背景とする今日の社会では、家族の絆さえも希薄になっていることが問題視されている。そうした社会に生きる日本人にとって、アマランテの温かな料理はより一層胸に染み入るのかもしれない。そんな氏から私たちが学ぶことは多いだろう。
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direction by Akira Shimada | photographs by Akira Maeda, Shungo Tanaka | text by Yasuhiro Takeishi

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