事業継承

2023.08.01

深刻な後継ぎ問題 先延ばしにすると何が起こるのか?

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今般、新聞を開けば「事業承継」や「M&A」という字を見ない日はないと言っても大げさではない。それほど日本における「後継者問題」は深刻な状況にあるのかもしれない。

早速ではあるが、後継者問題を解決する代表的な5つの方法を以下に並べたい。
 
1 .親族内承継
2. 従業員承継 
3. 上場 
4. M&A 
5. 清算 
 
今回のコラムでは、「1. 親族内承継」に焦点を当てて、一企業における後継者問題の解決方法を深堀していきたい。

一種の「幻想」から生じる最悪のケース

企業経営にとっての課題はたくさんある。人材の採用や教育、主要取引先との関係、銀行との付き合い──。どれもが経営の大事な要素で、日々解決しなければいけない課題が山積みである。それらをクリアすることで経営者の一日が終わってしまうことも多い。
 
その中で、後継者問題は先送りにされる傾向にある。経営者自身がいつまでも元気でいられるという一種の幻想と、今すぐ取り組まなくても大きく影響がないと考えられがちだからだ。つまり「最重要の問題でありながら、喫緊の問題ではない」という特性が、先送りという状況を生んでしまっている。
 
では、後継者問題を先送りにしすぎると、どんなことが起こるのか。最悪のケースは、社長の急逝を原因とした会社の清算である。以下に実例を紹介したい。
 
都内にある設備工事関係の会社社長は50歳でまだまだ働き盛り。社員は20人超え、5年連続で営業利益は1億円だった。どんどん成長を続けてきたこの会社の特徴は、スーパー営業マンである社長の“一本足打法”だった。
 
大きな仕事を取ってくるのは必ず社長。大手取引先との接待で連日会食があり、持ち前の人柄と圧倒的な知識量で取引先との関係性をいっそう強くしていた。この社長と筆者は、この会社の税理士を通じて一度面識はあったが、M&Aをするつもりはないと聞き、深い関係にはなかった。
 
ある時、税理士からの電話で事態が急変したということが分かった。社長が急逝され、相続や会社の売却も含めて相談に乗ってほしい、とのことだった。急いで会社へ伺うと、明らかに雰囲気が違った。社長の抱えていた案件をこなし、取引先への説明をしないといけないというプレッシャーからか、社員の方々の疲労が伝わってきた。

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社長の存在がこの会社の大きな比重を占めていたため、会社としての仕組みを整えていなかったこと、後継者を育てていなかったことが、この事態を招いてしまったと筆者は理解する。結果として、この社長の急逝からまもなく、キーマンとなる社員が大量に退職してしまい、会社を清算せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。 
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文=安藤智之 取材協力=奥村茂之(M&A worksマネージャー)

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