事業継承

2023.08.01 07:30

深刻な後継ぎ問題 先延ばしにすると何が起こるのか?

親子での話し合いが奏功したケース

後継者問題は、喫緊の問題ではないが、最重要の問題である。だからこそ、何か起きてしまった場合に準備をしていないと会社が大きく傾いてしまう。早期から時間をかけて備えておくことが欠かせない。以下では、その具体的解決例を見ていきたい。
 
東海地方のある空調設備会社の社長には2人の息子がいた。筆者がこの社長と接点を持ったのは、ある会社の取締役からの紹介であった。その社長はあまり家庭で仕事をしないタイプ。もともと子どもの人生を縛りたくない思いだったが、長男の中学校で「父親の職業を学ぼう」というテーマが出された際、子どもが継ぐことが幸せなのかをあらためて考えたという。

息子たちは地元で有数の進学校である高校に通った。月日がたち、大学に進学していた長男が親戚の集まりの最中に就職相談をしてきたため、話し合いの場を持った。そこで、息子に「好きな仕事をしなさい」と伝えた。

社長はこう振り返る。「周囲からは継がせる候補の息子が2人もいると見られてきた。でも、自分はこの子たちを含めた家族を幸せにしたい。そこに真摯に向き合い続けることができたので納得する方向性を出せたのではないか、だから準備してきた一言が言えた」と。
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実は筆者は、この長男からも相談を受けてきた。長男は、“子どもが親の会社を継ぐもの”という世間の空気感から、「継いだほうがいいのかな、と感じながら育ってきた」という。ただ、もし親に継がせる気があるのなら、幼少期からもっと口酸っぱくいろいろ言われていたはずだ、とも感じていた。高校進学時にはすでに継がない方向に傾いていたが、「自分は親不孝なのか」と罪悪感に似た気持ちも抱えていた。そのため、就職活動時に親の本心をしっかりと確認したかった。
 
現社長から見れば、子どもが就職活動は重要な節目になる。子どもが希望の企業や業種を決めて動き出してしまえば、いったんは止めづらい。この社長は、後継者問題を「最重要の問題であり、喫緊の問題である」と捉えていたからこそ、円滑に解決することができた。

心に留めてほしいのは、真剣さを伝えること。自宅のリビングではなく、社長室に呼んだり、ホテルの食事に行ったりして、その話し合いが重要であることを雰囲気からも伝えていく。こうした工夫がないとだらけてしまい、話を流されてしまうことがある。
 
もし結論が出なかったとしたら、次の約束を取り付けることも有効になる。子どもの立場からしたら、継ぐ、継がない、の結論は安易に出せない。それを見越し、親側から「3年たったらまた話をしよう」などと話を振ってあげることで、考える猶予を与えることができる。
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文=安藤智之 取材協力=奥村茂之(M&A worksマネージャー)

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