海外

2023.07.23 17:00

評価額73億ドルの「スケールAI」世界最年少富豪が目指す未来とは

一方、スケールAIに代わる企業も続々と現われている。サンフランシスコに拠点を置く20年創業のSurge AI(サージAI)も、データのラベルづけツールを提供しており、オープンAIは、この分野の有力企業になりつつあるコヒアやAdept(アデプト)と同様に、スケールAIとサージAIの両方を利用している。また、ベイエリアを拠点とする企業価値10億ドル以上のスタートアップのラベルボックスとSnorkel AI(シュノーケルAI)も、ラベルづけ分野で台頭し、後者は医療や金融など、テック系以外の企業にAIを届けることに注力している。

今年1月、スケールAIはフルタイム従業員の20%を削減した。ワンは市況の「不透明感」を理由に挙げており、「大幅な成長が続くと見て人員を増やしていたのですが」と1月投稿のブログに書いている。同社の株は現在、非公開株の流通市場で、21年7月に実施された最後の資金調達ラウンド時点から42%値下がりした価格で取引されている。

しかし、スケールAIの株主たちは現在も、同社がワンのもとで競合に対する優位性を維持できると確信している。「MITを中退する10代はほかにもいますが、彼がいまの地位まで上り詰めることができたのは、単に天才少年だったからではありません」と、評価額130億ドルのフィンテック企業Plaid(プレイド)の共同創業者で、スケールAIの取締役を務めるウィリアム・ホッキーは言う。「あれほど勤勉な人間はほかに見たことがありません」

スケールAIは先日、コンサルティング大手のアクセンチュアとの契約を獲得した。同社はスケールAIのサービスを使い、何百社もの企業のカスタム化されたAIアプリケーションやAIモデルの開発を支援する計画だ。一方、25万人近いラベルづけ作業員を擁するリモートタスクスは、現在も成長中だとワンは証言する。こうした成長は、すべてワンが考えるスケールAIの最終目的につながっている。すなわち、米国のAI分野における覇権の維持に一定の役割を担うことだ。ワンはこう話す。

「僕たちはいま、大いなる権力争いの時代にあります。米国のリーダーシップが危機に瀕しているとは言いませんが、その主導的ポジションを維持することはかつてないほど重要になっているのです」

アレグザンダー・ワン◎1997年生まれ。ニューメキシコ州出身。幼少期から数学の才能を発揮し、小学校6年生で数学の全米大会に出場。優勝は逃したがディズニーワールド行きのチケットを手に入れた。17歳で質問サイトのQuoraとフィンテック企業Addeparにプログラマーとして勤務。マサチューセッツ工科大学1年生のときにスケールAIを創業し、Yコンビネータから出資を受けて中退。

スケールAI◎2016年創業。創業当初は自動運転開発企業向けに、データのラベル付けサービスを提供。現在は米国防総省やGM、ピンタレスト、アマゾン傘下のZooxなどに利用されている。21年のシリーズEラウンドでドラゴニア・インベストメントらの主導で3億2500万ドルを調達。その際の評価額が73億ドルとされた。

文=ケンリック・カイ 写真=イーサン・パインズ 翻訳=木村理恵 編集=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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