投資家たちは21年、スケールAIに73億ドルの評価額を与え、ワンをシリコンバレー出身の「最速レベルで保有資産10億ドルを達成した起業家」に押し上げた。しかし、彼の資産は半導体のパワーだけで築かれたものではない。ワンの成功は、AIの構築に欠かせない「データのラベルづけ」という単純作業を担う、約24万人の外部委託労働者の力があってのものだ。
この任務を遂行するケニアやフィリピン、ベネズエラをはじめとする国の人々は、スケールAIが公的なマーケティング資料では言及していない「リモートタスクス」と呼ばれる子会社に雇われている。つまり、AIがいつの日か退屈な日常の業務から人類を開放するとしたら、それは、その多くが時給1ドル以下で働く新興国や途上国の労働者のおかげということになるのだ。
「彼らは、強力なAIシステムを構築するプロセスにおいて非常に重要です」と、ワンはリモートタスクスの作業員たちについて語る。
しかし、彼らの低水準の労働条件や低賃金の問題は、倫理的な懸念が高まっている。一方で競合他社は、スケールAIがトランプのカードでつくられた家のように脆い存在だと見ている。
同社は、複数回の人員整理や、ワンからビリオネアの称号を剥ぎ取った昨年の流通市場での株価の下落に直面しているからだ(流通市場でワンの15%の持ち分は6億3000万ドルと評価されている。しかし、スケールAIは、その価値が8億9000万ドルに近いと主張している)。
「スケールAIは、自分たちをテクノロジー企業として売り込んでいますが、私たちからすれば、ほかのアウトソーシングの企業となんら変わりません」と、ライバルの新興企業Labelbox(ラベルボックス)の共同創業者、マニュ・シャルマは指摘する。ほかの競合も、自分たちのほうがスケールAIより優れたサービスを提供できると考えており、従来のアウトソーシング企業も、自分たちのほうがスケールAIより安価にサービスを提供できると考えている。
しかし、ワンはこの主張に対し、「僕らのほうが長くこの問題に取り組んでいますし、ほかのどの企業より多くの技術を開発しています」と反論する。彼は、倉庫から発送に至る供給網全体を管理するアマゾンの戦略にならおうとしている。スケールAIでいえば、それはデータ処理作業を、ますます自動化させているマシン側と、ますます大群化する人間の労働者側の両面で管理することを意味する。
「人間による作業は常に必要です」(ワン)
最年少ビリオネアになった早熟の天才
大学に進学する前、ワンはベイエリアに移り住み、インターネット系新興企業のQuora(クォーラ)に勤め、同社の共同創業者兼CEOのアダム・ディアンジェロから極めて重要な助言をもらった。「大学で4年間学ぶことは過大に評価されている」と言われたのだ。ワンは最終的に、米マサチューセッツ工科大学(MIT)にたった1年在籍しただけで、シリコンバレー最強のスタートアップ養成所として知られるYコンビネータに向かった。