「でも、『大丈夫、コードは書ける。僕らでこいつをやってやるぞ』とか、そんな感じでした」
当初のアイデアで、スケールAIはアルゴリズムでは不可能な作業を行う人間の労働力を供給するワンストップショップになる予定だった。いうなればAIへのアンチテーゼ的な存在だ。米ベンチャー投資会社アクセルのパートナー、ダン・レヴィンはその可能性をいち早く見抜き、16年7月にワンとグオに450万ドルのシード資金を提供し、自宅の地下室を当座のオフィスとして使わせた。
その後の数カ月で、ふたりはスケールAIの存在が、当時のAI開発の最前線に居た自動運転テクノロジーの各社を悩ませていた問題の解決策になることに気づいた。この分野の企業は、途方もない量の路上で撮影された映像を用いて自動運転車のAIを訓練するが、その映像を確認し、データのラベルづけをする人員がまるで足りていなかった。スケールAIはそのニーズを満たすことができた。
18年にワンとグオは、フォーブスの若手起業家リスト「30アンダー30」の企業向けテクノロジー分野に選出された。グオはその後、スケールAIを去ったが、彼女はその理由を「製品のビジョンとロードマップに関する考え方の違い」だったと語り、それ以上のコメントを控えた。ワンもグオが会社を去った理由を語らなかった。
インデックス・ベンチャーズ共同創業者のマイク・ヴォルピが初めてスケールAIの名前を聞いたのは、18年に投資先の自動運転のスタートアップ「Aurora(オーロラ)」の取締役会に出席したときだった。
彼は「誰だって?」と聞き返したことを覚えている。その後、スケールAIのラベルづけサービスが、オーロラに必要不可欠になっていることを知ったヴォルピは、その年の8月にスケールAIへの1800万ドルの投資を主導した。同社の収益がまだ300万ドルにも満たない時期のことだ。
自動運転分野の事業はドル箱に転じつつあった。フォーブスが確認した19年6月の資金調達用のプレゼン資料によると、その当時のスケールAIの顧客リストには、トヨタ自動車や本田技研工業などの世界的自動車メーカーだけでなく、グーグル傘下の自動運転企業のウェイモなど、シリコンバレーの巨人も名を連ねていた。
さらに、アップルの秘密に包まれた自動運転部門との取引だけでも1000万ドル以上の収益を上げており、年間収益は4000万ドルを超える勢いだと記されていた(スケールAIはこの資料に関するコメントを控えた)。実際に、この年の夏になるころには、同社の年間収益は4000万ドルを超える軌道に乗っていた。
19年8月にピーター・ティールの投資会社ファウンダーズ・ファンドから1億ドルの投資を受け、スケールAIは評価額10億ドルのユニコーン企業となった。そして、その後の20カ月で総額5億8000万ドルを調達し、評価額は70億ドルを突破。その結果、当時24歳のワンは、世界最年少の自力で資産を築いたビリオネアとなった。