農業ブランディングの勝ち筋
NFTは市場が小さいので、高価格帯の農作物から取り組み始めるのが勝ち筋だと感じています。ブロックチェーン上でNFT保有者がオープンに見えるので、購入後のお客さんと繋がりを持てる。NFT保有者向けに新しいサービスを展開したり、割引クーポンを配布したり、永続的に関係を持てるというのがNFTの良さだと思います。
NFTは、コミュニティの基盤になりやすいんです。お客さんとの関係を構築し、一緒に企画をやっていきたい農家さんとの相性も良いと思います。
これまでMetagri研究所で販売したスイカNFTやトマトNFT、イチゴNFTも、たまたま熊本県の農家でした。チャレンジャーである農家が繋がり、こうした動きから自治体と連携したNFTプロジェクトが生まれるなど、先端的な取り組みが次の販路に繋がっていくことを肌で感じています。
いまNFT冬の時代に、NFTをやったらどうなるか考えて取り組むこと自体が差別化になっているのではないでしょうか。
かわみつ農園の場合も必死に考えた結果、NFT販売を後払いにするという前例のないことをやっています。答えのない中で頭をひねって新しいことを生み出していること自体が「価値」だと思います。
今後もかわみつ農園の課題に寄り添っていきたいと思います。例えば、凹みや、炭素病で黒くなってしまったマンゴーは、売価が半額以下になってしまう。Metagri研究所のメンバー間では「形や見た目ではなく、味が同じなら価値も同じということにしたい」と話しています。今回のプロジェクト参加者などに、規格外と呼ばれるマンゴーを正規の値段に近づけて売るということしてみたいですね。
今まで儲かる個人農家は情報発信が得意で、セルフブランディングが上手な人ばかりでしたが、全ての農家がそれをやるのは難しい。上手にできるのは一握りの人なんです。
だから、発信やブランディングを得意な人にやってもらうということを持続的にやりたいと考えています。かわみつ農園の場合だと、YouTubeや音声配信にはまだ足を踏み出せていないので、Metagri研究所のメンバーができないかと考えています。そのようなPR支援やSNS発信が自立的に生まれてきたら、農家の負担が減ると思います。
農家は農作物を真心込めて作る。さらに農家以外の人も携わり、魅力を伝えていく。この仕組みができれば、農家がもっと輝くと思います。
私が思うブランディングとは、差別化です。いかに周りがやっていないことにチャレンジして花開くかというチャレンジでしかないんです。
今回の「値段を決めてイーサ」も、NFTでの後払いシステムという前例のないことへのチャレンジです。これが最終的に「値段を決めてイーサのかわみつ農園」と認知が広まったら、ブランディングは成功だと思うんです。
こうした差別化は、パイを奪い合うよりもクリエイティブに新しい展開を考えることです。農業は単なる「生産」ではなく「創造」だと捉え直す必要があると思います。農産物+αのサービスや付加価値をどう創造していくか。それが結局はブランドにつながると考えています。
甲斐 雄一郎◎イギリスのマンチェスター大学院で農村開発学修士号取得後、カンボジアのNGOで現地インターン。インターン卒業後、専門商社に入社し「植物工場事業」の新規立ち上げに従事。「農業×IT」の必要性を強く感じ、外資系ITコンサル企業に入社し、ITコンサルタントチームを経て、農業ベンチャーに入社し、タイでイチゴ生産事業の立ち上げを担当。2021年8月より「株式会社農情人」の代表取締役に就任。