経営・戦略

2023.07.14 17:00

「感情資本主義」から読み解くウェルビーイング経営と未婚化の時代

Forbes JAPAN編集部
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イルーズ:これを背景に、1920〜30年代には「職場の心理学化」が生じます。生産性を高めるためには、働く人の感情や対人関係を相応に整え、利用するのがよいと企業が気づいたのです。理想のリーダー像もそれまでの権威ばった人物ではなく、「熱心で人柄がよく、従業員にもフレンドリーであるよう自己コントロールできる」人物へと変化しました。そうしてアメリカでは1930年代以降、成功を説くビジネス書が、ポジティブ・トークや共感、熱意を重視するようになり、友好的で快活であれと強調してきました。最近ではスピリチュアルなものやセラピー的なものがそこに含まれるようになっています。

山田:国内でも、怒りのコントロールやマインドフルネスをテーマとする研修が企業に導入されるなど、職場における感情マネジメントが定着していると思います。適切な感情管理は生産性向上の手段であると同時に、あらゆる企業が取り組むべきリスクマネジメントの一部になっていますね。

イルーズ:はい。ここ20〜30年の間に、企業が労働者を雇用したり評価する際、「感情知能」を指標とすることが増えています。企業のなかで、「感情知能が高いセールスパーソンは売り上げ成績がいい」といった考え方が支持されるようになると、ある特定のパーソナリティの型をもつ人──例えば、感情をうまくコントロールし、心地よい話し方ができる人──が高く評価されるようになります。そして、感情知能の高い人ほど、感情を資本にうまく収斂することができるため、感情の階層化が生じます。これが、感情資本主義のひとつ目の側面、「経済的行為のエモーショナリゼーション」です。

山田:日本でも、近年「健康経営」や「ウェルビーイング経営」が推奨されていますが、これは従業員を健康で幸せな状態にすることで、職場の生産性や創造性を高めようとするものです。長時間労働やハラスメントが横行する職場よりはベターですが、自分自身の幸せや心身の健康が仕事に利用されている気がして、違和感を覚える方もいるようです。

感情知能◎感情知能(エモーショナル・インテリジェンス、EI)とは、自分の感情について知り、それに名前をつけ、他者の感情を理解し、相互作用の中で協調性をもってふるまえる能力のこと
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text by Mariko Fujita | illustration by Jia-yi Liu、Oriana Fenwick | edit by De-Silo & Forbes JAPAN

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