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2023.07.20 09:00

非日常で贅沢な冒険こそが「究極のラグジュアリー」なのか?

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経済的に豊かな人たちが次に何を求めるか? というテーマになれば、自らの命もかけるエクストリーム・ツーリズムに直接には繋がらないかもしれませんが、ぼくがこれまで接した人の話をしたくなります。
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1990年にイタリアのトリノにぼくが住み始めたのは、成功した実業家として名声の高い宮川秀之さんに師事するためでした。

1960年代後半、ジュージャロというカーデザインの巨匠、元フィアットの生産エンジニアであるマントヴァーニ、この2人と「イタルデザイン」というデザイン会社をつくり、世界のカーデザインの潮流を変えていきました。スズキイタリア、ヒュンダイイタリアというバイクやクルマの現地輸入法人をつくったのも彼です。

ぼくが彼の傍で学びたいと思ったのは、宮川さんがビジネスに留まらない多方面の活動をしていたからです。イタリア人との奥さんマリーザさんとの間の4人の「ホームメイド」に加え、韓国、インド、イタリアの子2人も養子にとって合計8人の子を育てていました。またアフリカの子どもたちの「あしながおじさん」もやっていました。彼の著書名にもありますが、文字通り「開かれた地球家族」です。
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しかも、エイズで育児がままならない、薬物乱用のために家庭が保てないような状況にある子どもたちを助ける活動もしていました。1980年代前半からトスカーナでは有機農法の農園を仲間と経営しオーガニックワインをつくっていました。その近くの丘の上にある狩りの館を買い取り修復し、日伊文化センターの準備をしていた。それが、ちょうど1990年頃だったのです。これらをマリーザさんと2人が中心になって進めていました。
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八面六臂の活躍という表現がありますが、当時、この人ほどそのような言葉が似あう人はいませんでした。だから、著書を通じて宮川さんの生き方を知ったぼくはラブレターを彼に送り、「弟子入りさせてくれ」と頼み込んだわけです。

ぼくは彼のもとにいる3年半、オフィスでちょっと時間があると、宮川さんから人生や事業への考え方について聞きました。そのなかで今回のテーマに沿う言葉だと以下のようなものが思い浮かびます。

「マリーザとよく話すのは、最も大事にしたいのは、日々の生活のなかにいかに冒険を持ち込むか? 持ち込めるか? ということだ。日本に行けば、高級な料亭で接待を受けることも多い。しかし、自分たちのまったく知らない領域に足を踏み入れ、ちょっとでも何か前進したと実感したときに食べる一杯のラーメンが何よりも美味い。この瞬間のために生きている」

宮川さん夫妻は、生活のなかにいわば「世界」を入れ込んだようなところがあり、さまざまな若い人の世話してきていました。そうすると、それこそ一筋縄ではいかないことが起こるのが日常になります。そうしたことに2人は、柔軟に対応していたのですね。ぼくもその恩恵をうけた1人ですし、その後、ぼくもイタリアにやってきた若い人との関係は多いのでよく分かるのですが、「毎日が冒険」です。
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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