1つは、手元に明確なデータがあるわけではないが、欧州や米国の人たちがモノを買うこと自体への関心を失っていると語る人は、私の周囲にも少なくない。
殊に、考え方が洗練され、モノの選択でも目利きである人たちが、そう語るのである。ただ、このキャッチコピーを、これまでのラグジュアリーで使われてきた「排他的」「独占的」と理解すると見誤る。自分の感覚にもっと正直に従うとの意味合いが強いはずだ。因みに、アジアの人たちの購買意欲はそこまで衰えていない、とも耳にする。
2つ目として時計市場について触れると、ヴィンテージ市場の拡大も貢献しているだろうが、ダルピッツオ氏の同僚であるフェデリカ・レヴェト氏の分析として紹介しているインタビュー記事を参照すると、従来、男性優位市場と見られていたスイスの高級時計において、女性による購入が増えているというトレンドがある。ジェンダー・ニュートラルを支持する女性が従来の男性中心市場の牙城を崩している背景があるようだ。
メイントピックスの最後には、「ESG 関連法規制や生成 AI/新たなテクノロジーによるバリューチェーン全体への影響に対応することが中⾧期的な課題」という指摘もある。
手作り職人によるノスタルジックな世界観でラグジュアリーのビジネスが成立しているわけではない。新たなテクノロジーもできるだけ自分たちのビジネスにひきつけて考えようとしている。1990年代後半から今世紀初めにかけ、オンラインに懐疑的であったことへの反省が効いているかのようだ。
サスティナブル戦略に関していうと、これは来年からスタートするEU規制の影響が大きいはずだ。すべての製品について素材から廃棄までを追跡できるようなデジタルデータの保存を製造者に求めていくため、1万キロ離れた場所で生産してEU市場で販売するとのシステムは成立しづらくなる。
循環経済が成立できる規模と国際化した市場規模をジレンマとして抱えるため、技術的な解決という次元を超えて、「ラグジュアリーとは何か?」がより問われていくだろう。