井田幸昌にとっては国内美術館で開催する初めての展覧会だ。日本凱旋、そして出身地米子での展覧会は、故郷に錦を飾ることにもなる。
前回>>「自分は不良品だ」 画家・井田幸昌がやっと見つけた居場所
物事は変化し続ける
展覧会のタイトルは、ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの「パンタ・レイ(万物は流転する)」から名付けられた。「タイトルは、半年くらい考えても全然出てこなくて。“一期一会”って何だろうと考え続けるなかで、ヘラクレイトスの『人は同じ川には足を2度入れることはできない』という言葉が出てきました。川は流れ続けているので、見た目は変わらなくても同じ状態は2度と生まれない、ということですね。これが自分のテーマとも合っていると思い、決めました」
渋谷のスクランブル交差点に掲出した「Panta Rhei/パンタ・レイ−世界が存在する限り−」の広告
今回の展覧会では、国内未発表作を含むこれまでの絵画作品、立体作品に加えて、代表作のひとつの “End of today”シリーズや、最新作も出展予定。井田の「変わり続けるもの」と「変わらないもの」を同時に感じられるような展示だ。
「人として“不良品”の僕でも、一生懸命ひとつのことに取り組んできた。そういう人間でもこれくらいのことができるんだということを見てほしい。これだけ描いてきても満足できなくて、延々と描いて貼って、を繰り返してきました。
1人の人間の伝記を読むような気持ちで鑑賞してもらえたらと思っています。僕の作品ではありますが、すでに独立した存在なので、鑑賞時に生まれるストーリーは僕だけのものではない。それがパンタ・レイですから」
物事は変化し続ける、という意味では、鑑賞者側も常に外的・内的な環境に応じて変化していく。今回は期間を分けて2会場で開催されるため、会場ごとの違いはもちろん、展示される「物語」を見る側の自分の受け取り方を楽しむこともできるだろう。
テクノロジーとどう向き合う?
今、AIアートなど、テクノロジーの活用が進んでいる。これから、アーティストとテクノロジーはどう向き合っていくべきなのか。井田は「文明が育った結果、文化が育つ。文化は文明によって変化していく」と指摘する。