食&酒

2023.07.09 18:00

「遺跡だけではない」エジプトへ カイロで国際的な食イベント

そのほとんどが、地元のシェフと料理を出し合うコラボレーションではなく、ゲストシェフがすべての料理を担当するポップアップ形式での開催。あえてそうしたのは、世界のトップシェフの皿数が多い方が、エジプトのレストランが最新の技術をより多く吸収できる、という考えからだ。

オープニングイベントは、ギザ地区に11月にオープン予定の新しい美術館「グランド・エジプシャン・ミュージアム」のお披露目もかねて行われた。

新美術館は、ピラミッドを背景に望み、入り口では巨大なラムセス2世の像が出迎える、ゆったりとした佇まい。エジプトの最も貴重な歴史的文化遺産を保存・展示しているカイロ博物館(1902年開館)の老朽化が進んでいるために建設されたが、このロケーションからも、過密化するカイロから郊外への流れが感じ取れる。

この日のイベントでは、壁に一口サイズの前菜がオブジェのように飾られ、プロジェクターで投影されたアーティスティックな背景のもと、ミクソロジストによる、香りにもこだわった甘すぎないカクテルが提供された。世界No.1シェフとしても知られるマッシモ・ボットゥーラ氏が招聘され、美術館内に特別な厨房を作って料理を提供。エジプトとイタリアがローマ帝国時代には一つの国だったことを考えると、歴史的な観点からも興味深い。


ボットゥーラ氏の旗艦店「オステリア・フランチェスカーナ」のあるモデナは、紀元前、ローマ帝国時代からの歴史が残る古都でもある。氏は、提供の際に「自分がやっていることは、味覚への挑戦なのだ」と語った。

その言葉を紐解くと、私たちが当たり前だと思って味覚の中に知らず知らずのうちに染み込ませてしまっている想定や予想を全て覆すことで、誰もが想像だにしなかった新しい食を生み出すことができる、という挑戦、と読み取れた。

しかし、それは歴史に基づかない、ただの思いつきとは異なる。モデナがあるエミリア・ロマーニャ州は、はっきりと輪郭のある味が根付く地域だ。

例えばこの日、デザートの軽やかな洋梨のコンポートには、塩気の効いた濃厚なパルミジャーノ・レッジャーノチーズのソースがかけられていた。逆にいうと、そのベースがあるからこそ、「甘味よりも塩味が勝つデザート」という、奇想天外な組み合わせを成立させることができる。その全てを、ボットゥーラ氏は挑戦と呼んでいるのだろう。

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文=仲山今日子

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