「鑑賞者がいない無人島でも絵を描き続けるか?」データサイエンスで考えた働き方の科学

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最新のAIやビッグデータ分析に利用されている情報工学的な知識を、日常の些細な難題に適用したら──。『となりのアルゴリズム 自分で答えを出すためのデータサイエンス思考』*(篠田裕之著、光文社刊)より、以下、部署の後輩たちとサッカー観戦に出かけた広告会社のデータサイエンス部門に勤める著者が、「ベクトルが全て自分、内向きだ」という後輩と、アルゴリズム分析の手法を引用しながら働き方について、人生について語り合う場面を抜粋でお届けする。(※本書はフィクションである)


とある週末、小池くんと渡辺くんとサッカー観戦に出かけた。我々は特に贔屓にしているドリブラータイプの選手がいる。この日の試合も彼がドリブルで敵陣を切り裂くシーンが何度もあったが、得点シーンはドリブルではなく味方とのワンツーパスを起点として生まれたものだった。

試合後、我々は居酒屋に寄り、スマホで先程の試合を配信で振り返りながら飲んでいた。

「彼はこれまで我が強くてそれが魅力でもあったのですが、なかなか結果がついてこず苦しんでいる印象がありました。でも、今季は余裕がありますね。周りが見えているというか」

小池くんが言った。

「プレイ幅が広がったな。これまでドリブルが武器だとこだわっている部分があったが、パスがうまくなった」

渡辺くんが続いた。

「僕、彼は自分にすごく似ていると思って親近感湧くんですよね」

「小池が? 髪はムサいし、先週のフットサルで準備運動中に足つったのに?」

「いや、外見や運動神経ということではなく……なんと言えばいいか、生き方と言えばいいのか。自分は結構周りが見えていなくて、よくデリカシーがないと言われるのだが、気を遣えないというよりも、そもそも究極的にはあまり他人に興味がないんだよね。自分がいかに成長するかとか自分のやりたいことをやるとかそういうことに関心があって、ベクトルが全て自分、内向きなんですよ」

「バランスなのでは。別に自分にベクトルが向くことが悪くはないし、自分と向き合う時間も必要だろ」

私は、小池くんと渡辺くんの会話をレモンサワーを飲みながら聞いていたが、ふと小池くんに尋ねた。

「小池くんが死ぬときのことを想像してほしいのだが、愛する家族に囲まれながら、しかし自分は何も成し遂げることができなかったと思いながら死ぬか、ただひとり孤独の中ではあるが、ある分野の中で確かな爪痕を残したと自分の中の充足感にみちながら死ぬか、どちらかの未来しか選べないとしたらどちらを選ぶ?」

「また極端なことを言いますね。どうだろう。いや、恋愛はしたいですし、いずれ家族も欲しいかな。でも自分がまだやりたいことが自分の実力不足でできていなくて燻っていることも事実です。難しいな。後者……と言えるとストイックで格好いいですが。というか聞き方が誘導尋問ぽくないですか。ちなみに篠田さんはどちらなんですか?」

「圧倒的に後者……だった」

「だった? 今は前者ということですか?」

「わからなくなった」

「ずるい。そもそもどちらかしかないという考えが偏っていますよ」

「わからなくなったが、考える道筋として対話式イグニッション法を用いるとよい」
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