第二の「カメ止め」になるか!?
「リバー、流れないでよ」では、何度も繰り返されるタイムループが正確にきっちり2分間で描かれていくが、それだけに撮影はかなり困難を極めた。1回の2分間のシーンに、撮影開始当初は10テイク以上も費やしており、全編では200から300くらいのテイクを要しているという。旅館「ふじや」の女将役の本上まなみ(中央) (c)ヨーロッパ企画/トリウッド2023
しかも撮影時期は真冬の1月。10年に1度の大寒波の直撃を受けて、撮影中止に追い込まれたこともあったという。山峡の土地のため、雪にも見舞われた。作品のなかでは、タイムループごとに雪が降っていたり止んでいたりするので、多少の違和感も覚える。
ただ、撮影に際しての天候の変化については織り込み済みで、タイムループによって異なる雪の状況については、「世界線のズレ」という言葉で表現されている。それぞれどんな場面で雪が降っているのかということも考慮に入れながら、ポジティブに物語へと取り込んでいったという。
「『世界線のズレ』とは、いわゆるパラレルワードです。荒技でしたが、何気にそちらのほうがシネマティックではないかと考えました。スタッフともかなり検討して、雪が降っている場合はこういうシチュエーションだとか、意図はあります」(山口監督)
笑ってばかりいると気づかないのだが、それぞれのタイムループと天候の関連について意識しながら観賞するのも、この作品の味わい深い楽しみ方かもしれない。
映画「リバー、流れないでよ」は6月23日(金)より全国順次ロードショー (c)ヨーロッパ企画/トリウッド2023
山口監督に言わせると、「リバー、流れないでよ」は「ノーVFXのSF作品」だという。つまりVFX(視覚効果技術)をいっさい使用せず、実写のみでつくられたSFだという。実は、これは観てのお楽しみだが、近所の子どもたちに撮影を手伝ってもらい、い、線香花火がVFXの代わりに「活躍」している場面もある。
けっして多くのバジェット(予算)を費やした大作ではない。どちらかというと知恵と手間を駆使した手づくり感満載の作品だ。
筆者の頭のなかには、5年前の夏、たった2館の劇場公開からスタートして300館を超える拡大公開となり、30億円超の興行収入を記録した「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)が浮かんだ。第二の「カメ止め」になる可能性はじゅうぶんにある。
ちなみに、今回の作品では、山口監督は演出に専念して、撮影は川越一成が担当している。実は、川越は「テルマエ・ロマエ」でも撮影にクレジットされていた。筆者にとっては不思議な暗合だが、とにかく「リバー、流れないでよ」が、とことん笑うことのできる快作であることは確かだ。
連載 : シネマ未来鏡
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