前回の作品「ドロステのはてで僕ら」(2020年)は、2分後の世界と現在を結ぶ「タイムテレビ」をめぐって登場人物たちが右往左往するSFコメディで、世界27カ国の53の映画祭で上映され、23もの賞に輝いた。
どちらの作品も監督は山口淳太、原案・脚本をヨーロッパ企画を主宰する上田誠が務めている。山口監督もヨーロッパ企画に所属する映像ディレクターで、前作の「ドロステのはてで僕ら」では撮影も担当し、全編をワンショット風に仕上げ、完成度の高い作品を送り出していた。原案・脚本の上田とのタッグは、今回の「リバー、流れないでよ」でも完璧だ。
山口監督は言う。
「まず僕らはコンセプトをつくるのです。今回はタイムループと貴船。2分間の呪縛に閉じ込められた人たちを、貴船を舞台に描くというのが、まずもってやりたかったことです」
「リバー、流れないでよ」のメガホンをとった山口淳太監督
貴船は京都市の北部にある。市内からは車で40分はかかり、鞍馬寺のある鞍馬と並び京都では「秘境」に属する山深い土地だ。
「上田は、映像の場合はロケ地が決まっていないと脚本が書けないのです。人物がここからそこにどれくらいで移動できるのだろうと、事前のシナリオハンティングで時間を計測して、全部の数字を出してからではないと書き始められない」
そんな事情もあり、今回の「リバー、流れないでよ」では、最初にロケ地が公募されたという。自薦他薦で多くの候補地が寄せられ、清水寺や京都タワー、鴨川などのなかから貴船が決まったのだという。
「いろいろな場所を検討させてもらったのですが、貴船では以前に劇団で生配信劇を撮影していたので、どういう場所かわかっていた。本当に素敵な場所だったので、あそこで映画を撮ることができたらすごくいいのではないかというのが、上田との共通の認識でした」
「リバー、流れないでよ」の原案・脚本を担当した上田誠は、京都で25年以上も人気劇団「ヨーロッパ企画」を主宰している
他にも貴船を選んだ理由としては、京都を舞台にした映画で、この地でロケをしている日本映画がほとんどなかったことも挙げられたという。しかも貴船には、奈良時代以前から歴史に名を残す由緒伝統のある貴船神社も存在する。
「とにかく伝説に事欠かない。貴船神社は丑の刻参りでも有名ですし、タイムループが起こっても不思議ではない場所なのです。そこに現代を生きている若者を登場させることで、あまり浮世離れもせず、作品にも感情移入してもらえるのではないかと考えました」
ちなみに貴船神社には縁結びの神としての信仰もあり、このことが物語の重要な部分にも関わってくる。