こうした傾向をみごとに体現して見せたのが、イギリスの老舗チョコレート・メーカーであるキャドバリーがインドで行った、生成AIを活用した取り組み「シャー・ルク・カーンMy Ad」だ。副題的に、「#NotJustACadburyAd」というフレーズも添えられている。“単なるキャドバリーの広告ではなく”という意味だ。
「Cadbury: Shah Rukh Khan 」
この事例は、昨年6月にフランスで開催されたカンヌライオンズ2022において、クリエイティブ・データ部門ゴールドなどを受賞した。カンヌライオンズとは、世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つアワ−ドである。
コロナ禍で打撃を受けた小規模店舗の支援に
起用されたのは、インド映画界の50代のスーパースター、シャー・ルク・カーン。広告の対象となった商品は、「キャドバリー・セレブレーション(キャドバリーのお祝い)」と呼ばれるチョコレート・ギフト・ボックスだ。インドでは毎年、インド歴の正月である10月~11月に5日間にわたって、“ディワリ”という年間最大のお祭りが開かれる。ディワリという言葉には、「闇に打ち勝つ光」とか「悪に打ち勝つ善」といった意味合いがあり、町中がキラキラと輝く光の祭典として知られている。
「Cadbury: Shah Rukh Khan」より
この広告コミュニケーションが行われたのは、2021年10月23日~11月7日で、インドもまだまだコロナ禍に苦しんでいた。特に地域の小規模店舗は、その多くが大きな売上減少に直面した。
こうした地域の小規模店舗は本来、人々の暮らしのライフラインであるはずだが、パンデミック下、人々は過度なまでに衛生状態に配慮し、ドアtoドアの配達に慣れ、お祭りのギフト需要に関しても、Eコマースの会社が注目を浴びていた。
そこで、大手で資金力もあるキャドバリーは、自社製品のプロモーションを兼ねつつこうした小規模店舗を支援することは出来ないのか?と考えたのだ。
ここで重要なのは、支援と自社製品の売上アップの両立である。企業活動は“慈善事業”ではないので、この両立こそがキーとなる。そこで着想され実行されたのが、「シャー・ルク・カーンMy Ad」だ。