「たまたまRCAで、たまたま人工エラだった。起業やビジネスは想定していなかったが、人工エラから透湿防水性テキスタイルにジャンプしたことが結果としてよかった。もし、最初から透湿防水性の新素材を開発しようとしていたら、AMPHITEXは生まれなかったかもしれない」
AMPHITEXは3層からなり、表面は撥水性の織物生地、中に湿気を逃す穴が多く開いた膜の層を挟み、下の層は肌触りを考えてニット生地を採用している。そのすべてが同じ素材からできているため、撥水する表面も含めて、100%リサイクル可能という特性を持つ。
PFAS規制により市場全体で素材開発競争が加速しているが、亀井はAMPHITEXに勝機を見ている。
「近年のPFAS規制により、一層目の織物生地には非フッ素系コーティングが施されていますが、使用によってこの性能が低下する問題が起っています。しかし、AMPHITEXの第一層はそもそもコーティングを不要としているため、性能低下が起こりにくい。また、アパレルブランドからの要望を想定し、伸縮性や染色の点も対応しています」
「偶然の産物」をビジネスで成功させるには
現在AMPHITEXは、ヨーロッパと日本の北陸で量産に向けての準備を進めている。「僕は世の中に届けるのも発明のうちだと考えています。決して、R&Dの上流だけが発明ではない。量産工程においては、先端素材を開発するR&Dとは別のクリエイティビティを発揮できるので面白いです。それに、テキスタイルのような量産型のビジネスだと、工程での工夫が成功したときのレバレッジが大きいです」
オペレーション重視の工場でクリエイティビティを発揮するのに、亀井は、「知り過ぎない。自分の頭で考える」ことが重要なのだという。
「なぜこの方法なのか、疑問に思わないとダメなんです。昔は意味があった方法でも、前提条件がかわっていることも多いです。昔誰かが考え切ったことでも、今も毎回それがいいとは限らない。先端素材の開発は、前提の知見、先行研究からのインスピレーションに加え、当たり前を当たり前にしない姿勢が大事です。
RCAではみな自由に発明をしていました。自由自在にやってもなんとかなるということを目の当たりにしていました。でもそれだけでは“偶然の産物”のようなもの。自由に考えてできた“偶然の産物”を、ロジカルに考え直す。その両輪が大事です」