次世代アウトドアウェアの定番に? 美大卒の起業家が生む新素材

AMPHICOが開発する人工エラ(左)と透湿防水テキスタイル「AMPHITEX」(右)

学生の出自もさまざまだ。環境問題に配慮したトイレを開発するLoowattのCEO Virginia Gardinerは、スタンフォード大学で比較文学の学士号を持つ。AIを活用した教育アプリを提供するBabblyのCEO Maryam Nabaviは、イラン生まれの航空宇宙エンジニア。
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ほかにも、海藻から作られるプラスチック代替品「Notpla」、メタバース内で思考もクリエイションもできる「Gravity Sketch」など、注目のスタートアップも同じコースの卒業生が創業している。

「発明した知財を卒業時に返してくれる」というRCAのスタンスも、亀井によれば、ここで起業をするメリットになるのだという。

こうした条件が揃った環境で、亀井は「人工エラ」を開発した。アイデアは、魚や水生昆虫の観察から着想を得た。酸素ボンベがなくても人が水中で呼吸ができるように、水に潜っても濡れず、エラを通してガス交換ができる仕組みになっているという。
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「このプロジェクトは水とともに生きる未来のライフスタイルを自由に発想するところからスタートしていて、商品化や経済合理性を前提に発明していなかった」と言うが、それが偶然ロンドンの投資家の目に止まり、亀井は2018年にAMPHICOを起業。具体的なビジネス展開を探り出すことになる。

アウトドアウェアの「有害性」に着目

ほどなくすると、新型コロナウイルスのパンデミックが発生。全世界で、人々の生活が一変した。

出社が制限されるなかで、DXが進み、リモートワークが浸透。接触を避けて楽しめるキャンプが流行り、在宅による運動不足を解消するスポーツや健康への関心が高まっていた。そこで亀井は、アウトドアウェアやスポーツウェアの「フッ素加工」に目をつけた。

アウトドアウェアは撥水加工のため、有機フッ素化合物(PFAS)で表面を覆われていることが多い。PFASは撥水、撥油の機能があり熱に強い特性から、我々の生活のあらゆるところで使われてきたが、近年は環境や人体への影響が指摘され、欧米ではPFAS化合物の規制が本格的に進んでいる。

加えて、EUではEPR規制(Extended Producer Responsibility: 製造業者が、消費後の製品の廃棄物の処理とリサイクルに責任を負うことを要求する法律または規制のこと)の導入も検討されており、リサイクル可能な機能性テキスタイルのニーズ拡大が見込まれている。

代表的な素材メーカーであるゴアテックス、アウトドアウェアブランドのパタゴニア、ノースフェイス、コロンビアなどは、こうした規制の動きを受け、高機能と環境配慮を両立した素材への代替を急いでいる。
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美大で覚醒するスタートアップ

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