カルチャー

2023.06.14 17:00

ラッパーも続々来日、なぜモンゴルではヒップホップが人気を集めているのか?

DESANTのライブに多くの在日モンゴル人の人たちが集まった。「HIPHOP of Nomadz」にて

社会の変化がラップに影響を

そもそも大西さんとモンゴルヒップホップとの出合いは2000年代前半の夏、東京外国語大学モンゴル語科在学中に訪ねたウランバートルでのことだったという。
筆者がウランバートルで見かけたグラフティのひとつは偶然にもKAによるものだった

筆者がウランバートルで見かけたグラフティの1つに描かれていたのは偶然にもKAだった


彼女はそのとき韓国料理店で食事をしていたのだが、BGMとして流れてきたのは坂本龍一が作曲した映画「ラストエンペラー」の挿入曲のリミックスされたフレーズで、ふと耳を澄ますと、突然激しいモンゴル語のラップが重ねられたのだった。その迫力に身体中の血流が沸騰したという。
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店員に聞くと、TATAR(タタール)というヒップホップグループの「Hairiig hundel」(「他人の愛に敬意を」という意味)という曲だった。

彼女は卒業後、出版社に勤めるが、その後フリーになり、2013年以降、毎年モンゴルを訪ねるようになった。今年5月も現地に向かい、音楽ライブやシャーマンのフェスティバルを訪ねている。

では、なぜモンゴルでは、これほどヒップホップが若者の支持を集めているのだろうか。
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「この国の30年の社会の変化が大きく関係しているかもしれない」と大西さんは言う。

「1990年代初めに民主化したモンゴルは21世紀に入って、鉱山資源の発掘と輸出で経済成長を実現しつつあります。とりわけ2011年には17.3%という世界最高の実質GDP成長率を達成しましたが、資源価格の下落や資源ナショナリズムによる政策転換、政治腐敗などでそれ以降、成長が鈍化します。

残されたのは、深刻な経済格差や大気汚染といった環境問題などで、若者は将来になかなか希望を見いだせていない。私も、大学を卒業しても就職先がないので、海外で働きたいという若者たちからの相談をよく受けています」

彼女のモンゴル人の友人は「自分の心の中にあっても、口にできない強い思いをラッパーたちが代わって叫んでくれるからヒップホップが大好き」と説明してくれたそうだ。

「彼らが歌うテーマの多くは、家族や恋人への愛、人生、モンゴル人の誇り、そして政治に対する不満や怒り」だという。中国内モンゴルではとうてい不可能な、こうした自由な表現が支持されるのは当然といえるだろう。

では、モンゴルの熱いヒップホップシーンには、どこに行けば出合えるのか。

大西さんによると、毎年7月上旬、ウランバートル郊外の草原で開催されるミュージックフェスの「Playtime」に行けばいいそうだ。今年は7月6日から8日までの開催で、ヒップホップは「Streetzステージ」で観られるという。

「もちろん、ウランバートル市内のクラブで聴くこともできます。ライブ情報は、ラッパーたちのSNSをフォローしておくと『今週金曜、ここでライブするよ』というような情報が日々流れてきます。またレストランや2階建てバスのテレビなどでもヒップホップが流れていて、街を歩けば普通に出合えるのがいまのモンゴルです」(大西さん)

これからは日本国内でも出合えるチャンスがありそうだ。彼らは在日モンゴル人の期待に応えて必ずまた来日するだろうし、5月に来日したラッパーで、大西さんがイチ押しというYoung Mo’Gが日本でミュージックビデオを撮影したり、日本在住のオーストラリア人DJとコラボしたりするなどの動きもあるという。

文=中村正人 写真=大西夏奈子

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