カルチャー

2023.06.14 17:00

ラッパーも続々来日、なぜモンゴルではヒップホップが人気を集めているのか?

この本は、モンゴルのシャーマニズムをナショナリズムやエスニシティ(エスニック集団が表出する現象)との関連から研究してきた同教授が著した異色の人類学ドキュメント。1992年の民主化以降のモンゴル社会の激動のなかで生まれたヒップホップ文化を、深くフィールドワークしながらまとめたものだ。

「トーノト~天窓の下で暮らす者たち」を初めて観たとき、誤解をおそれずに言うと、これほど秀逸で完成度の高いモンゴル観光のプロモーションビデオはないのではないかと驚かされた。

都市と草原、さらには国境を越えて行き交う数々のラッパーたちの歌声は、「のどかな羊の国」というモンゴルのイメージを大きく塗り変える強度を感じさせたからである。

これを機にモンゴルのヒップホップシーンに関心を持つことになったが、最近までYouTubeを通じてラッパーたちの世界に触れるしかなかった。

その筆者に、現在のモンゴルでのヒップホップの状況を教えてくれたのは、「モンゴルのぞき見」というウエブサイトを通じて、現代モンゴル文化を紹介している編集者・ライターの大西夏奈子さんだった。

彼女によると、今年5月上旬、人気モンゴル人ラッパーが大挙して来日。六本木や渋谷、銀座、代官山で同時多発的にライブが行われたのだという。おそらくこの話を知る日本人はほとんどいないのではなかろうか。

モンゴルからラッパーが大挙来日

実は、前出の島村教授も昨年春の特別展の会期中にモンゴル人ラッパーを招聘する予定だった。

しかし、コロナ禍で延期となったため、昨年11月26日に「口承文芸から現代史、そしてヒップホップへ~モンゴルの韻踏み文化」というイベントを同館で開催。モンゴルから大御所俳優で歌手のソソルバラムさんや大人気ラッパーのDESANT(デサント)、モンゴル女性ラッパーの先駆者Gennie(ジェニー)を呼んだ。

このイベントは、モンゴルの「韻踏み文化」の観点からシャーマニズムとヒップホップを繋げて考察し、それをリアルなステージで体感してしまおうという斬新な企画だった。

モンゴルからのアーティストたちが来日したとき、アテンドを務めていたのが大西さんだった。

当時、モンゴルから空の便が到着するのは成田空港のみだったので、彼女はモンゴル人アーティストを大阪まで連れていくことになった。その後、彼らと一緒に東京に戻ると、同月29日に渋谷の「CIRCUS TOKYO」でDESANTとGennieをフィーチャーしたライブイベント「HIPHOP of Nomadz」を行った。
2022年11月29日に渋谷「CIRCUS TOKYO」で開催された「HIPHOP of Nomadz」の告知は、グラフィックデザイナーでもあるKAによるもの

2022年11月29日に渋谷「CIRCUS TOKYO」で開催された「HIPHOP of Nomadz」の告知は、グラフィックデザイナーでもあるKAによるもの


「会場には百数十人のお客さんが集まりましたが、うち9割以上は20代から30代の在日モンゴルの人たちでした。会場が温まった頃にようやくラッパーたちが登場。場が一気に彼らの空気に染まり、鳥肌が立ちました。お客さんたちもものすごく熱いノリで、会場ではアルコールが飛ぶように売れたと聞いています。また、初めてモンゴルのヒップホップライブを観たという日本人のお客さんたちにも大好評でした」(大西さん)
モンゴルの女性ラッパーGennie、「HIPHOP of Nomadz」にて

モンゴルの女性ラッパーGennie、「HIPHOP of Nomadz」にて
「HIPHOP of Nomadz」でのDESANT。「Toonot Records」というラッパーのレーベルの創設者でもある

「HIPHOP of Nomadz」でのDESANT。「Toonot Records」というラッパーのレーベルの創設者でもある


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文=中村正人 写真=大西夏奈子

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