経済・社会

2023.06.12 16:30

平成の米国はどこに行ったのか 迷走するバイデン政権の対中外交

各種報道によれば、5月にサリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と中国の外交担当トップ、王毅共産党政治局員がウィーンで会談。米中央情報局(CIA)のバーンズ長官やクリテンブリンク米国務次官補が相次ぎ、中国を訪れるなど、緊張緩和を巡る動きが活発化していた。逆に言えば、ブリンケン国務長官の2月の訪中中止は、こうした米国の外交戦略とは相反する措置でもあり、それだけ、バイデン政権が米国世論の反応に敏感になっている証左と言える。最近も、バイデン大統領が5月、債務上限問題への対応から、予定していたオーストラリアとパプアニューギニア訪問をキャンセルしている。米国の専門家の一人は「民主党も共和党も大統領選での勝利で頭がいっぱいだ。いくら良い外交戦略でも、世論に受けないと判断すれば、政治的に採用できない状況が強まっている」と語る。

こうした状況は、日本にも跳ね返ってくる。米国に余裕がないため、同盟国や関係国に配慮しない行動が目立っているからだ。4月26日に行われた米韓首脳会談では、バイデン政権が力を入れるインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)と、半導体関連法(CHIPS and Science Act)が焦点になった。韓国はそれぞれ、現代自動車やサムスン電子などに対する米政府の支援を望んだが、米側は例外扱いを認めなかった。日本政府のある中堅官僚は「各役所のトップが実務者だった20年前は、米国はアフガニスタン侵攻やイラク戦争を仕掛ける超大国だった。この世代の人たちは米国の言うことなら、無条件で聞かなければいけないという意識が強い。でも、令和の今、米国にそんな力はない。日本も独自の国益をもっと追及したほうが良い」と語る。

日本では、台湾有事を巡って、米軍が介入することを当然の前提として議論する人も多い。松村五郎元陸上自衛隊東北方面総監は「米軍が全面的に軍事介入するとは限らない。ウクライナのように武器支援だけにとどまるかもしれない。日本も米国の動きを注視しながら、日本領域の防衛を考えるとどんな関与の仕方が良いのかもっと議論すべきだ」と語る。今の時代、平成の米国はすでに姿を消し、令和の米国であることを、私たちは肝に銘じるべきだろう。

過去記事はこちら>>

文=牧野愛博

ForbesBrandVoice

人気記事