果たして、一連の米外交は上策だったのか、下策だったのか。外交には制裁や報復がつきものだ。最近でも、ロシアのウクライナ侵攻を巡って、ロシアと西側諸国の間では、自国に駐在するロシア(西側)外交官の追放合戦や大使の一時召還合戦などが起きている。知り合いの外交官によれば、こうした場合に一番良いのは、「自分の手を縛らない制裁」だという。制裁や報復を行う際、相手に「○○するまでは制裁を続ける」と言ってしまうと、相手が要求に応じないとき、延々と制裁を続けなければならない羽目に陥る。日本政府も2017年、釜山の日本領事館前に慰安婦を象徴する少女像が設置されたことを受けて、大使らを一時帰国させた際、「いつ復帰させるのか」が問題になった。
今回は、「米上空でのスパイ気球の活動」という絞られた問題だったから、米国も比較的、矛を収めやすかったのだろう。中国も気球について「気象など科学的研究に使われる民間のもので、西風の影響でコースを外れた」と主張していた。少なくとも米国上空に気球を飛ばすこと自体に慎重になっていたため、めでたく外交が正常化することになったのだろう。
ただ、中国は当時、米国による気球撃墜については「強烈な不満と抗議」を表明していた。バイデン米大統領自身も当初、気球の撃墜には慎重な姿勢を示していた。ロイター通信によれば、バイデン米大統領は2月9日、中国の偵察気球について、安全保障上の重大な違反はなかったとの見解を示した。国際社会も、攻撃の意図を明確に確認できない限り、領空に入ってきた物体を撃墜して良いかどうかについては、意見が分かれていた。だが、米国内ではトランプ前大統領ら共和党から撃墜を求める声が上がっていた。一般世論も、気球による偵察という思いがけない事態と悪化している対中感情から、強い対応を求める声が渦巻いていた。撃墜は、来年の大統領選をにらんだ世論対策の結果だったとも言えるだろう。