教育

2023.08.04 10:30

ヒトラーが落ちた有名美大に上流の子息でない僕が留学できた理由

2次試験で製作した作品

前述したように、製作テーマや使う素材は自由でした。しかし、2次試験はポートフォリオの本人確認的な役割も強いので、基本的にはポートフォリオに載せた作品と同じ方向性のものを作ることが望ましいといえます。

ぼくは、2次試験では作品の制作プロセスに着眼した映像作品を作りました。抽象絵画のクラスを受験していますが、使うメディアはなんでも良く、何なら作品でなくても、スケッチや作品制作のプランでも構わないとのことでした。


タイトルの「Über meine Essgewohnheiten nachdenken」は「自分の食生活を反省する」という意味です。以下は説明。

この作品の前提として、芸術とは、人々の営みの痕跡そのものではないかという考えがあります。例えば、フランスのラスコー遺跡の壁画を描いた人は「芸術作品を作ろう!」という意志はあったでしょうか。

あの壁画を「芸術」として昇華させたのは、後世に生まれた批評家などです。だからわたしは芸術は作るものではなくて、見つけるものだと考えています。


今回の作品では、自分の食生活を表すレシートを、美術のコンテクストを意味するキャンバスで捉えることで、芸術を見つけようと試みました。

補足すると、この作品の着想はハイ・レッド・センターなどで知られる中西夏之の作品「洗濯バサミは攪拌行動を主張する」(1963年)という作品にあります。彼は1960年代の美術運動・フルクサスに影響を受けた作家の一人で、この作品では、キャンバスに洗濯バサミを大量に貼り付けることで芸術と日常生活の境界を取り払い、その2つを攪拌することに作品のねらいを置いていました。詳しい話はここでは割愛します。

さいごに

ぼくはウィーン美術アカデミーにおいて、至高の美術教育を受けられるとは全く思っていないし、大して期待もしていません。けれども、そこは明らかに日本から遠く離れた地であり、日本とは何かが違うわけです。

人が自分の顔を鏡なしでは自分で見ることができないように、日本という国と向き合おうとした時、日本にいては輪郭をみることすらままならない。今回の留学は、この興味に対して鏡という俯瞰を与える機会だと思っているし、帰国した暁にはこの俯瞰を生かして何かしらの活動をしていきたいと思っています。




※なお長澤氏は8月、9月、東京で以下2つの展示を開催する。

■現代アートからのリハビリテーション’23(現代アートという、基準が非常にあいまいな美の規範性から脱却するために、作家自身が持つ欲望に対して素直になることで、作家単位で美の規範性を形作ることを目指す展示)

会場:Hello Bee(東京都台東区池之端2-6-12)
会期:2023年8月16日(水)- 8月22日(火) 会期中無休
時間:14時 - 20時
参加者:佐川 梢恵、沙山 有為、 長澤 太一、前川 結佳、宮野 野乃花(五十音順)
企面:長澤 太一
協力:Hello Bee


■メディウムの音を聞く(長澤氏がウィーンと東京でそれぞれ出会った作品の「一部が偶然似ている」といったことから、その有用性と限界を相互に反復することで、社会における作家や制作のスケールを観測するキュレーション展)

会場:仲町の家(〒120-0036 東京都足立区千住仲町29-1)
会期:2023年9月2日(土)〜9月18日(月・祝) 土・日・月・祝のみオープン
時間:10時〜17時
参加者:高田 満帆、友高 遼

文=長澤太一(担当=石井節子)

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