ビジネス

2023.06.07 18:00

京大准教授が求める「共創時間時計」は水星人との待ち合わせに使えるか

Getty Images(写真はイメージ)

ワークショップも後半にさしかかり、いよいよあと1分で質問を一つにしぼるよう指示を受けた際、ある一人の中学生は班の質問を一つに絞ることを固辞した。他のメンバーは周りの空気を察して、「じゃぁもういいから、あなたの質問にしてはどうか」と場をおさめることを優先しようと声かけをしてくれたが、その声にも耳を傾けない。
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「ぼくの意見を通したいから言ってるんじゃない。なぜその質問をするのか、みんなが考えた理由を聞いて議論を尽くしたい」。

彼はただ議論を尽くしたかったのだ。わたしたち大人は、ワークショップの進行予定や授業時間を優先し、目の前で起こっている深い学びの兆しに目を向けようとはしない。進行表通りでないとみんなに迷惑がかかるからとか、締め切り時間に間に合わせることが仕事だとか、議論を尽くさない言い訳をたくさん並べてしまい、当事者の誰のものでもない時間に沿って共創を演出する。モヤモヤ度計がそこにあれば、彼に「あと1分で」などと声をかけることはとてもできなかったのではないか。

「あと5分で考える時間は終わりますので、残り10分で意見をまとめて発表準備に移ってください」という杓子定規の進行とは異なる時計を、会議やワークショップなど本当に共創を必要とする場に持ち込みたい。「皆さんの霧がかった悩みがモヤモヤに変わってきたようですので、そのモヤモヤを焦らず共有してください。モヤモヤ度計がスッキリの人同士、さらにグルグルの人同士で、それぞれグループを組み替えてみましょうか」といった、共創時間時計をつかったワークショップを早く試してみたい。

時間を感じとるための心

児童文学作家ミヒャエル・エンデの名作『モモ』に、町の人から時間をだまし取る灰色の男たちが登場する。時間に追われて自分らしさを失っていく町の人々の時間を、一人の少女モモが取り戻す場面である。50年も前に刊行された物語にもかかわらず、効率化の御旗の下でスピードをあげて作業を繰り返しても幸せになるどころか、お互いを思いやる余裕すら失ってしまう現代生活をずっと以前から知っていて、エンデが今のわたしたちに警鐘をならしているようにも読める。
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「光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある。もしその心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないもおなじだ(『モモ: 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語 』((ミヒャエル・エンデ著、大島 かおり訳、1976年、岩波書店刊))より引用)

わたしたちも共創時間を感じとるために大切なものをはやく取り戻さなければいけない。水星人とだって、意外とモヤモヤとスッキリのタイミングが一緒だったりして、意気投合できるかもしれない。


Tool Salon vol.03 〜共創のじかん〜
https://youtu.be/H5K38-0tBeM


 

塩瀬隆之(しおせ・たかゆき)◎京都大学工学部精密工学科卒業、同大学院工学研究科修了。2014年7月京都大学総合博物館准教授。2018年より経済産業省産業構造審議会イノベーション小委員会委員および若手WG座長、特許庁知財創造教育調査委員、文化庁伝統工芸用具・原材料調査委員、日本医療研究開発機構プログラムオフィサー、2025年大阪・関西万博政府日本館有識者など。2017年度文部科学大臣表彰・科学技術賞(理解増進部門)ほか、受賞多数。著書に『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』(学芸出版社、2020年)、『未来を変える 偉人の言葉』(新星出版社、2021年)。

文=塩瀬隆之 編集=石井節子

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