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2023.06.07

京大准教授が求める「共創時間時計」は水星人との待ち合わせに使えるか

Getty Images(写真はイメージ)

たしかにワークショップにおいても、熟達したファシリテータは「観察」を大切にする。議論しているグループのなかに、一人眉間に皺を寄せた人がいる、グループでの話し合いにお互いの目の焦点があっていない、口数が減って天井を見上げてばかりの人がいる、など。予め割り振られたタイムスタンプを追いかけるのではなく、それら個々人の戸惑いやひらめきの瞬間を見極め、絶妙のタイミングで声をかけることができれば、どんなワークショップにおいても参加者のアイデアや経験がたくさん集まり、予想を越える成果に一歩でも近づくに違いない。

禅の言葉に「啐啄の機(そったくのき)」というものがある。弟子が悟りをひらこうとするまさにそこに達する瞬間にきっかけを与える一瞬のことであり、まさに啐啄時計を持つことができれば、個々人が持ち寄る経験とアイデアが折り重なる刺激的な共創の場になる。

ワークショップに「モヤモヤ時計」をつけて臨めば……

しかし、共創の場においても、現実世界では会議室の使用時間や予定といった拘束時間の制約がある。だが、会議でもワークショップでも、モヤモヤが晴れない人のひっかかりは見過ごしてはいけない。次の進行に移りたいであろう空気を察知しつつも、言うか言わないか悩んでいそうな雰囲気を感じ取ったら、進行を度外視してでもそのモヤモヤの中身を尋ねる方がよい。そこには、それまでの議論を揺るがすような核心に迫る「そもそも」に向かう問いが含まれていることが少なくないからである。

予定された進行表通りに次のステップに移ることを優先してしまいがちである。「わかりましたか?」「大丈夫ですよね?」といった参加者への声掛けは、状況認識というよりは声掛けをしたというアリバイづくりに近いかもしれない。もしモヤモヤ度合いを推し量る時計のようなものを一人ひとりの参加者が装着してくれていれば、話は大きく変わってくる。

たとえば学校教育においても、探究学習やアクティブラーニングなど、一方通行ではない主体的な学びの機会が増えてきている。しかし、不慣れな手続きであるためか、進行表通りにその内容をたどることを優先してしまう失敗例を耳にすることがある。限られたコマ数のなかで逆算して解答できそうな課題に取り組むなど、発想の広がりを最初から限定してしまうなどは本末転倒である。モヤモヤすることにあまり時間を割かず、スッキリしたことにして次々と手順を進めていくことに気を取られ、周囲もそれが前に進んでいるような錯覚を覚えて安心してしまう。

彼は「ただ議論を尽くしたかった」のだ──

さいきんの学生はプレゼン慣れしているせいか、30分でまとめる、15分でプレゼン準備する、というのはお手の物で、時間通りにきれいに模造紙を埋めることができる。ここで述べる「きれいに埋まる」とは、もちろん誉め言葉として用いているわけではない。お互いの言葉への引っ掛かりもなく、価値観の違いがぶつかり合ってモヤモヤすることもない。そのようなきれいにまとまった模造紙は、主体的で対話的、深い学びの過程と言ってしまってよいのであろうか。

以前、ワークショップで出会った一人の中学生の一言が忘れられない。ゲスト講師にどんな質問をぶつけるか、5~6人ずつの班に別れた中学生たちが議論してから質問内容を決める企画であった。
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文=塩瀬隆之 編集=石井節子

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