映画

2023.06.03

「怪物」がカンヌ脚本賞 多視点で描かれる「羅生門」構造の映画

映画「怪物」より(c)2023「怪物」製作委員会

前述したように、「怪物」は3つの視点から成り立っているが、まずこの母親である早織の物語が描かれていく。この時点では、「怪物」は早織ではないかと思えるくらい、彼女の学校への抗議は凄まじい。しかし、第二の視点、第三の視点と提示されるに従って、「怪物」の正体が明らかになっていく。

3つの視点は、小道具や音などで見事にシンクロされており、後で振り返ってみればそれらが合わさって、緊密な物語が形成されていることに気づく。そのあたりの脚本の緻密さは、やはり坂元裕二の真骨頂ではないだろうか。

もちろんそれだけではなく、「たった1人の孤独な人のために書きました」という受賞時の坂元の言葉にもあったように、この世界で疎外された人間の悲痛な感情も物語には塗り込められている。

映画『怪物』は6月2日(金)より全国ロードショー(c)2023「怪物」製作委員会

ちなみに「怪物」は、今回のカンヌ国際映画祭で、主要部門の授賞式前に発表される独立賞である「クィア・パルム賞」も受賞している。

この賞は、LGBTやクィア(性的マイノリティ)を扱った映画に与えられる賞で、映画祭に出品されたすべての作品が対象。「登場人物のあらゆる面を、繊細な詩、深い思いやり、そして見事な技術で表現した」と評価され、審査員の満場一致で選ばれたという。

選考理由を詳述するとネタバレにもなりかねないのだが、日本映画としては初めての受賞で、こちらも脚本賞と並ぶ栄誉であることは確かだ。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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