映画

2023.06.03 18:00

「怪物」がカンヌ脚本賞 多視点で描かれる「羅生門」構造の映画

3つの視点で描かれる「怪物」

映画「怪物」は、いわゆる「羅生門」構造を持った作品だ。

「羅生門」とは、黒澤明の代表作のひとつで1950年の映画だが、ある殺人について「被害者」「被害者の妻」「加害者の盗賊」の三者三様の視点から描いている。つまり「羅生門」構造とは、同じ出来事を複数の視点から描くもので、映画の物語手法として定着している。
(c)2023「怪物」製作委員会

「怪物」では、子どもたちの諍いが、息子を溺愛するシングルマザー、担任の学校教師、そして当人たちの3つの視点で描かれる。特に章立てされて描かれてはいないため、少し戸惑うところがあるかもしれないが、この町に発生する火事の場面に注目して観ていると、合点もいくと思う。

大きな湖に面した町の雑居ビルに火事が起きる。自宅のベランダから火事を見ていた麦野早織(安藤サクラ)は、11歳になる息子の湊(黒川想矢)から「豚の脳を移植した人間は、人間か豚か」という質問をされて困惑する。

夫を事故で亡くしてから2人で暮らす早織は、湊のスニーカーが片方なくなったり、水筒から泥水が出てきたりするので、息子の学校生活に異常が起きているのではないかと案じる。

ある夜、早織は湊の帰りが遅いので、車で捜しまわると、彼は廃線跡の暗いトンネルのなかにいた。湊はまるで誰かと待ち合わせているかのように、スマホの光をかざし「かいぶつ、だーれだ」と呼び掛けていた。

早織の運転する車で帰る途中、湊は突然ドアを開けて外へ飛び降りる。幸い軽いケガですみ、病院で脳のCT検査を受けた湊だったが、「担任の保利先生(永山瑛太)に”湊の脳は豚の脳と入れ替えられた”と言われた」と涙ぐむ。

翌日、早織は学校に乗り込み、湊が保利先生からハラスメントを受けており、殴られたと校長(田中裕子)に訴える。次の日、早織は保利先生から謝罪を受けるが、彼には明らかに誠意がなかった。

数日後、再び早織は学校に出かけて保利に詰め寄るが、「あなたの息子さんは、イジメやっています。家にナイフとか凶器とか持っていたりしませんか? 」と反論されるのだった……。

(c)2023「怪物」製作委員会
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文=稲垣伸寿

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