経済・社会

2023.05.31 16:30

衛星発射? 北朝鮮から届いたラブレター、日本と米韓を引き裂く狙いか

こうした状況を考えた場合、北朝鮮は日米韓あるいは日韓に楔を打ち込もうとしている可能性が高い。北朝鮮外務省日本研究所の研究員は5月10日、ソウルであった日韓首脳会談について、「日本が現実に背を向けて米国による三角軍事協力体制構築にしがみつくなら、東北アジア地域を不安定にしてしまいには火の海にし、その中で自ら焼け死ぬ境遇になる」という談話を発表している。日韓関係の急速な改善に伴う日米韓防衛協力の強化は、北朝鮮にとって不愉快極まりない動きだ。

しかも、今年の7月27日は朝鮮戦争の停戦80周年だ。北朝鮮は大規模な軍事パレードを行う見通しだが、韓国も米国と一緒に大規模な軍事演習を繰り返している。南北関係はかなり緊張する見通しだ。朝鮮中央通信によれば、朝鮮労働党中央軍事委員会の李炳哲副委員長は29日に発表した談話で、米韓合同軍事演習や米戦略原子力潜水艦の朝鮮半島への展開などを非難。「米国と南朝鮮(韓国)の無分別な軍事的蠢動」とののしり、6月に軍事偵察衛星を打ち上げると強調した。5月29日の北朝鮮外務次官の談話や衛星運搬ロケットの「日本だけ通報」の裏側には、日韓あるいは日米韓の仲を引き裂きたいという思惑が見て取れる。

北朝鮮は過去、戦略環境の改善を狙って日本に接近したケースが多かった。1990年9月の金丸信・元副総理らの訪朝の前年には東欧の共産主義諸国が次々に崩壊した。2002年9月の日朝首脳会談の前年には、米国で同時多発テロが発生。ジョージ・W・ブッシュ米大統領は02年1月の一般教書演説で北朝鮮などを「悪の枢軸」と呼んだ。過去と最近の国際情勢を比較してみた場合、北朝鮮にとって日米韓の接近は好ましくない状況だが、中国やロシアとの関係強化は進んでいる。日本に対するラブコールは、「是が非でも日朝関係を改善させないと困る」というよりは、「日米韓の足並みを乱すことができればもうけもの」といった程度の思惑から出た動きなのかもしれない。

北朝鮮関係筋によれば、今年のASEAN(東南アジア諸国連合)議長国のインドネシアは、北朝鮮外交の仲介に乗り出している。夏に開催される北朝鮮がメンバーになっているASEAN地域フォーラム(ARF)について、崔善姫外相の出席を打診しているという。北朝鮮は最近、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いたことを受け、人的交流を再開する動きを見せ始めている。崔外相がARFに参加する可能性もある。ただ、インドネシアはARFの場で米朝協議や南北協議を仲介したい考えだが、北朝鮮は米韓両国を無視し、中国などとの関係強化だけを目指すだろう。

今回の動きをみていると、北朝鮮は存外、日本の林芳正外相との会談にも応じる可能性がある。北朝鮮が拉致問題で譲歩する可能性は小さいが、チャンネルを作ることには意味がある。北朝鮮からの情報が増え、パイプもできれば、打つ手も増えるだろう。米韓両国と情報共有することを前提に、北朝鮮のデートの誘いに乗ることも、あながち悪いことではないだろう。

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文=牧野愛博

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