Koala Samplerは海外のデベロッパが開発したアプリなので、インターフェースが日本語化されていない。まだ英語を学んでいない子どもたちにも、果たして理解できるのだろうか? という、周囲の大人たちの心配はとりこし苦労に過ぎなかった。授業の冒頭に江﨑氏がアプリの各機能を簡単に説明しただけで、生徒たちはあっという間にアプリの機能を理解して使いこなした。「もっとアプリの踏み込んだ機能を教えてあげてもよかった」と、江﨑氏の口から反省の言葉がこぼれるほど、生徒たちはまるで「乾いたスポンジ」のように音楽をつくることの楽しみを全身で吸収し尽くした。
Koala Samplerアプリのユーザーインターフェースは日本語による表示に対応していない。にも関わらず、生徒たちは江﨑氏から簡単な説明を受けただけでさまざまな機能をいとも簡単に使いこなしてみせた
江﨑氏は語る。「デジタルデバイスを習熟することについては、大人が想像する以上に子どもたちの適応力は高いと断言できます。あとは生徒たちが体験に集中できる環境を大人が整えて、音楽をつくるということは人間にしか楽しめない特権であることを、メッセージとして子どもたちにわかりやすく伝えることが大切なのだと思っています」
成果を共有することも大事な学びの一環
学びにより得た成果、あるいは練習によって習得した技術を自身の血肉とするためには「周りの誰かに見せる機会」を持つことも大事だ。「昭和に教員として、幼児の音楽教育の研究者として活躍された細矢静子さんという方がいます。細矢さんはかつて、子どもたちが遊びの中で即興的に生み出す鼻歌のような『つくりうた』を研究していました。子どもたちの『つくりうた』に教員がピアノで伴奏をつけて、みんなの前で弾いて聴かせると、児童たちが『この子がつくった歌が好き』といったかたちで品評を交わすようになり、ほかの児童たちも巻き込んだ創作活動に発展したという研究の成果を、細矢さんは発表されていました。僕は同じようなことをiPadでやってみたいと考えました。今回のアートスクールでは発表の時間を設けて、各自が創った音楽や、集めたおもしろい音をAirDropで交換するといったレビューシェアリングを促しました」
生徒たちが創った曲、集めた音を発表する賑やかな時間も設けられた