アーティストへの楽曲提供や映画音楽の作曲など、音楽プロデューサーとしても注目を集めている江﨑。音楽家としてだけでなく、東京藝大在学中から東京大学のダブルスクールで情報やメディアについて学び、藝大卒業後は教育工学を専門とする研究室に進学した異才だ。
「もともと音楽家になるつもりはなかった」と言う江﨑がピアノを始めたのは4歳のとき。小学生の終わりごろに世界的ジャズピアニストであるビル・エヴァンスの音楽に出会ったことで、本格的にのめり込んだ。
「弾き方をマネするということではなくて、どうすればこんなに美しい音楽ができるのか、その成り立ちを聴いて、分解して、分析することに没頭しました」
その一方で、テクノロジーにも強い関心を寄せ、「自律型サッカーロボットに赤外線を発するボールを追いかけさせるプログラムを組んだりしていた」という。
やがて東京藝大に進学すると、音楽業界での人脈も広がるなかでひとつの気づきがあった。
「楽譜が読めなくても、楽器が弾けなくても、音楽で表現をして収入を得ている人たちがたくさんいたんです。それを可能にしているのは(音楽制作ソフトなどの)テクノロジーの存在だった。テクノロジーの支えにより、音楽は誰にとっても自由に自己表現する手段になり得る。そうした社会を実現できないかと考え、修士課程では幼児の音表現をiPadのアプリで支援する研究を行いました」
音楽と工学の融合で生み出す独自性
音楽と工学、2つの強みをもつ江﨑だからこそ、生み出せる音楽がある。常に意識しているのは、聴く側の鑑賞環境だ。
「インナーイヤー型イヤホンの普及により、いま人類は史上最も鼓膜に近い場所で音楽を聞くようになっています。ASMRの流行もその環境があってのもの。ホールやスピーカーではなく、鼓膜の近くで音を聴くようになったいま、演奏や録音にもより最適なかたちがあるのではないかと考えました」
演奏時に発生する「ノイズ」をあえて録音したり、音が鳴る位置や方向をバーチャルに感じることができるApple Musicの「空間オーディオ」に対応した楽曲を制作したりもしている。
「ポップスのアーティストとして、いまの環境に最適化した楽曲でみなさんを楽しませるのがいちばんの使命。加えて、音楽とその他の社会領域をつなぐ教育活動や、テクノロジーの力を用いて、誰にとっても音楽が自己表現の手段になり得る社会を実現していきたい」
えざき・あやたけ◎1992年、福岡県生まれ。音楽家。東京藝術大学音楽学部卒、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。2021年からソロ活動を開始した。