また、鵜匠とともに鵜飼の重要な役割を果たしている「鵜」についてもしかりだ。以前は、あまり外部の人間には伝えられてはこなかったが、実は鵜匠の自宅では何十羽の鵜たちがまるで家族の一員のように大切に育てられている。その暮らしのなかで鵜と鵜匠の間の信頼関係が育まれ、鵜匠は、鵜の体調や性格などを読み取り、鵜飼当日に仕事をしてもらう鵜を選ぶ。
鵜飼を海外でプロモーションする際、欧州、なかでも英国では、鵜飼の話は禁物だと言われている。彼らには、鵜匠が鵜の飲み込んだ鮎を吐き出させる鵜飼漁が動物虐待だと見えるとのことだ。でも実際に、鵜匠の自宅で日々、愛情深く育てられている鵜たちの姿を見たら、その考えは変わるはずだと私たちは考えている。
そのためにも数年前から、日本人向けだけでなく、海外インバウンド向けにも、鵜飼の旅マエ体験としての「鵜匠の家訪問」というプログラムを実施するようになった。それにいち早く賛同し、協力してくれたのが、前述した杉山雅彦さんだった。次のように語る。
「365日鵜匠としての社会的責任を背負い、そのプライドを持ちながら事業者として生計を立てて継承していくのが僕らの仕事。鵜飼は見ているぶんには優雅に見えるかもしれないが、めまぐるしい作業のなか、鵜を操り、必死に魚を獲る激しい仕事です。伝統漁を見せるパフォーマーであるとともに、川漁師としての心意気も持ちながら、歴史を受け継ぎ後世に伝えていくことが僕らの使命です」
そのために鵜匠もできることはやろうというのが杉山さんの考えだ。もちろん第一優先は鵜飼だが、観光客への鵜飼への理解を深めるために、さまざまなニーズにもできるだけ応えようとしてくれている。
その一環である「鵜匠の家訪問プログラム」でも、風折烏帽子の鵜匠の装束に身を包みながら、それらの意味や鵜飼で使用する道具などの説明、そして鵜とのコミュニケーションなど、観光客に向けて時にユーモアなども交えながら、丁寧に説明をしてくれる。
そこですっかり「雅彦鵜匠ファン」になった人たちも多く、いままで「虐待だと思っていたけれど、すくなくとも私の考えは変わりました」と言ってくれた欧州人の言葉もあった。
今後、このかけがえのない日本の宝を世界の宝に、そして未来へと継承していくため、岐阜市は長良川鵜飼のユネスコ無形文化遺産登録を目指していくという。登録の是非はどうあれ、私は長良川の鵜飼は、正真正銘、岐阜県が誇る清流である長良川流域で続けられてきた「サステナブルツーリズム」として世界に誇るべきものだと思っている。
川漁としての自然環境の保護や配慮の部分と、観光としての発展には、時に相反する選択が求められることもあるかもしれないが、未来につながる文化遺産として「長良川とともにある鵜飼」をどのように、今後、継承していくかについて真摯に向き合うことが大切なのだ。
それは杉山さんたち鵜匠や岐阜市だけの課題ではなく、私たち自身もまた、それぞれの役割のなかで考えていくべきものではないだろうか。そのためにも、ぜひ一度、長良川の鵜飼を体験してほしい。その際は、鵜飼だけではなく、ゆっくり宿泊し、その旅マエや旅アトの体験もお忘れなく。
●「ぎふ長良川の鵜飼」5月11日~10月15日