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2023.05.29

「風力発電」に活路見出す、いわき市の胆力|クレイ勇輝

福島県いわき市の内田広之市長(右)とクレイ勇輝

内田 福島県で原発再稼働の選択肢はあり得ません。でもエネルギーは我々の生活から切り離せないですよね。原発事故で避難生活を送られている方のうち、いまでも県内最大の1万7000人をいわき市が受け入れています。生活再建のサポートのためにも、エネルギー産業は重要なんです。

クレイ 時代が「再生可能エネルギーだから」ではなく、土地に根付いたストーリーがいわき市にはあるんですね。

日本で「唯一の施設」と人材育成

クレイ 福島県では風力発電の導入を積極的に進めていますが、設置基数でいえば、北海道や青森県、秋田県は300基前後であるのに対して福島県は100基ほどです。

その中で、いわき市は風力発電の設備をメンテナンスできる人材の認証制度を作るという、他にはない試みを始めています。とても面白いですが、なぜこういう取り組みをされているのですか。

内田 まず、いわき市の特徴についてお話する必要があると思います。いわき市は製造品出荷額等が東北地方で1位の都市です。ネジや金型、半導体を使った精密機器や化学塗料など、ものづくり産業を強みとしています。

風力発電機は1基あたり約2万個の部品が使われていると言われています。見方を変えると、いわき市のものづくり産業には様々な事業に参入できる親和性や下地が備わっているとも言えます。

ただ、40、50年同じスタイルのまま続いてきたものづくり産業がこの先も同じ状態で続けていけるかは不透明な時代です。産業として維持していくためには、新しい事業に参入してみる必要があると思うんですね。

実際、市内にある会川鉄工という企業は、これまで原子力発電所で必要となるタンク等を作っていましたが、業態を大転換し風力発電機を支える支柱(タワー)の製造工場を整備して事業を行っています。東北ネヂ製造という企業も、鉄道や高層ビルに使うボルトを製造してきた会社ですが、風力発電機用の耐久性や強度を満たすボルトを開発し参入を目指しています。

クレイ まさにいわき市のスモール・ジャイアンツです。単に風力発電機を設置するだけではなく、部品の供給が可能になりますね。

内田 いわき市内の小名浜港は国際貿易港で、いろんな国から輸入部品が上がります。風力の関係でも、中国やアメリカ、デンマーク、ドイツなどとの取引が期待されます。港からも風力発電の事業に繋がっているんです。

クレイ その環境は他県にない強みですが、気になることは人材確保です。これまでいろいろな首長さんと話をしてきたのですが、どの自治体も若い人が都市部へ流出してしまうことに頭を悩ませています。内田市長は、どうお考えですか?

内田 いま、どの自治体でも人の取り合いが起きていますよね。そこで先ほどの風力発電設備のメンテナンス人材育成の話になるんです。いわき市では関係機関と連携し、2023年度中を目標に、日本で唯一となる風力発電設備をメンテナンスに特化した人材を認証する制度の構築を進めています。

これまでも世界基準による安全面の制度はありました。私たちが考えたのは、その先のメンテナンス実務に対する制度です。

これまで風力は、一部の部品が壊れただけでそれ以外の部分も交換しなければならない、という状況がありました。修理をすれば何十万円、何百万円で済むのに億単位かかることも珍しくないとの話も耳にします。日本では風力発電が主流ではなかったため、部品もメンテナンスも、海外の風車メーカー等に頼らざるを得ませんでした。

だから国内では人材がほとんど育ちませんでした。そこで、いわき市に立地した風力メンテナンス企業である北拓が整備した訓練施設と連携し、風力発電に関わる人材の育成拠点にしようと考えています。
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文=児玉也一 写真=岡田清孝

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