体にフィットした仕立て、柔らかい素材、グレーやベージュ、ネイビーといった落ち着いた色み。クチネリが「スポーティシック」と称するスタイルの要素は、ある種のドレスダウンされたエレガンスを演出し、顧客には英国のウィリアム皇太子やダニエル・クレイグも名を連ねているとされる。
「私は資本主義者ですから、倫理的に、道徳的にですが、利益を上げたいのです。問題は、その利益をどのように分け合うかということです」
彼はウンブリア州の村ソロメオに会社を置き、その利益の最大20%をブルネロ・クチネリ財団経由で寄付し、利益の最大化を目的としない労使関係を実践する。08年の金融危機後も従業員をひとりも解雇せず、手作業に従事する従業員にイタリアの平均月給1700ドルを20%上回る賃金を支払い、従業員にタイムカードの打刻を義務付けたことはない。会社が補助金を出して優美なルネサンス建築の建物に従業員用の食堂を用意し、ワインや料理を約3.5ドル提供。昼休みは90分もある。
社屋である古城(当時)の奥に並ぶ作業室では、女性たちがボビン(紡織用の糸巻き)の操作や手縫い仕事、商品の洗い作業をし、袖や袖口など数え切れないほどの布切れの小高い山々の整理をしている。
<家訓>
・人間の尊厳を重んじるべし・独自の個性を確立するべし
・古いものを大切にするべし
もし投資家が製造工程をモーリシャスに移させようとしたら、クチネリはどうするのだろう。
「投資家には、長期にわたってわが社の投資家であり続けてほしいと願っています。ですが、会社の魅力を変えるような方法で利益を上げることを求められても、自分のアイデンティティを失うようなことはしません。それなら『わが社の株を買わないでください』と伝えます」(クチネリ)