1980年代から若手アーティストとして注目を浴び、商品デザインや広告など、さまざまなメディアに関わりながら作品を世に送り出してきました。絵画、舞台美術、映像、パブリックアートなど、その領域は多岐にわたり、なかでも段ボールを使った作品は世界に衝撃を与えました。
私は昨秋、東京のまちを舞台に2年に1度開催する国際芸術祭「東京ビエンナーレ2023」の特別内覧会に出かけたのですが、会場となった上野の寛永寺では、日比野さんから直接、自作についての説明を受けることができました。今年の夏から始まる「東京ビエンナーレ2023」では、その作品がお披露目されるはずです。
「職業は寺山修司です」に影響を
日比野さんは世界的に知られるアーティストですが、かつてのインタビューでは、自分の仕事についてこんなことを語っていました。「僕が絵で自分を表現したいと思ったのは、高校生のときでした。周囲の仲間たちが、運動が得意だからスポーツ選手を目指したり、音楽が得意だからミュージシャンを目指したり、英語が得意だから外国で生活することを目指したように、僕は絵が得意だったから、絵で表現できる大人になりたいと思ったんです」
その際に大事だったことは、何より自らの思いであり、熱意だったと言います。
「絵でも同じです。技術を学んで器用に描かれているけれど何を伝えたいのかわからない絵より、絵は上手に描けていないけど、伝えたいことのある絵のほうが説得力がある。伝えたいという思いがあることのほうが大切なんです」
大学(東京藝術大学)ではデザイン学科に所属していました。しかし、デザインといっても、グラフィック、パッケージ、建築などいろいろな分野がある。そのなかで、何のデザイナーになるのかを、まずは考えたといいます。そんなときに出会ったのが、歌人で劇作家の寺山修司さんでした。
「寺山さんにインタビューした実験映像に出合ったんです。寺山さんがいろいろな質問を受ける映像なのですが、そのなかで『あなたの職業は何ですか』と聞かれて、『僕の職業は寺山修司です』と答えるんです。彼は劇作家であり、詩人であり、競馬の評論家でもあったわけですが、『職業は寺山修司です』と言ったときに、すごくカッコイイと思った。僕もそういうふうに言えるようになりたいと思ったんです」