アート

2023.05.26

ウォーレン・バフェットの孫が語る、祖父との和解とNFTの価値

ニコール・バフェット(Photo by Joshua Sauceda / Outer Edge)

1976年生まれのニコールは、4歳のときに養子としてバフェット家の一員となった。シンガーソングライターだった彼女の母親は、バフェットの末っ子で編曲家のピーター・バフェットと結婚し、ピーターは、妻の連れ子の双子姉妹を養子にした。

倹約を美徳とするバフェットは、3人の子どもたちをすべて公立学校に通わせ、「普通のアメリカ人」になるように育てた。かつてフォーチュン誌から我が子に残すべき金額について聞かれた彼は、「これだけあれば何でもできると思えるが、何もしなくても暮らせるとは思えないくらいの額」が適切だと答えていた。

1958年生まれのピーターは、19歳のときに9万ドル相当の株式を与えられてスタンフォード大学を中退し、80年代にMTVの仕事をしていた。

祖母から学んだスピリチュアルな世界

ニコールと双子の姉のエリカが、バフェット家の最初の孫として一家に加わることを誰よりも喜んだのがバフェットの最初の妻で2004年に亡くなったスーザン・バフェットだ。2017年のドキュメンタリー映画『Becoming Warren Buffett(邦題:ウォーレン・バフェット氏になる)』で、もともと共和党支持者だったバフェットを、民主党支持に転向させたのは自分だと語るスーザンは、自由を愛する女性で、その当時は夫をネブラスカ州のオマハに残し、サンフランシスコで暮らしていた。

「祖母は私たちのすぐ近所に住んでいて、しょっちゅう家に遊びに来ては、色んな話を聞かせてくれました。シンガーでもあった彼女は、私の父や母と一緒にレコーディングをすることもありました。まだ幼かった私に、禅や仏教などのスピリチュアルな世界を教えてくれたのも祖母でした」とニコールは語る。

祖母の影響は、彼女のアート作品にも色濃く現れている。ニコールの代表作のNFTアート「スピリットコイン」はもともと、刑務所の囚人の社会復帰を支援する「センター・フォー・カウンシル」と呼ばれるNPO団体のチャリティのために制作したもので、筆で描いたカラフルな曼荼羅(まんだら)模様のサークルは、孤独や精神的トラウマを抱えた人々が輪になって語り合い、互いの心を癒やすグループセッションの様子をイメージしている。

 マーケットプレイスのOpenSeaに出品されたニコールの初めてのNFTコレクション「スピリット・コイン」

「NFTに出会ったことで、お金では買えない人間の精神的な側面を、独自のデジタル通貨にしてみようと思ったんです。お金という仕組みを再構築して、価値の根源にあるものを人間に戻したいと」

このスピリットコインのプロジェクトが高く評価され、ニコールは2021年7月に、フォーチュン誌が選ぶNFT分野のトップインフルエンサー50人に、ラッパーのジェイ・Zや投資家のマーク・キューバン、人気のNFTプロジェクトのクリプトパンクスらと並んで選ばれた。

彼女の精神世界への傾倒の背景にはインドでの経験もある。ニコールはアートスクールに在学中にインドに渡り、ブロックプリントと呼ばれる古来からの染め物の技法を学んだ。

「インドでの経験を通じて、アートが精神的な実践であることに気づくと同時に、現地の人々の過酷な暮らし見て、アメリカ人がどれだけ恵まれているか、私たちが当然のように受け入れているものがいかに貴重であるかを再確認しました。そして、苦境にあえぐ人々を助けたいという思いが自然に芽生えてきました」
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取材・文=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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