「これからの世界を変えるのは、一握りの富豪たちだけではないはずです。NFTや暗号資産は、人々に金融の知識を与え、バーニー・サンダースのアプローチのように草の根的に世の中を変える原動力になると思います」
子供時代のニコールは、年に数度、祖父の家を訪れ、祖父が所有するキャンディー工場を見に行ったこともあったが、バフェット家の財産については何も知らなかった。17歳のときに祖父がフォーブスの表紙を飾り、米国の富豪ランキングの1位に選ばれたのを見て、初めてその富の大きさを知った。驚いて父に確認すると、「ああ、お祖父ちゃんはこれからもっとメディアに出ることになるから、僕らはそれに慣れなければいけないよ。でも、うちの家族はこれまで通りの暮らしを続けていくからね」と言われたと、彼女はマリ・クレールのインタビューで語っていた。
「たとえ過去に何があったとしても、私が祖父の孫であることに変わりはないんです。私は、父の養子として家族に加わったけれど、家族というものは、遺伝的な要素だけで形作られるのか、それとも愛があってこそのものなのかと問われたら、私は愛が決めるものだと答えます。あれから長い時間が経って、それがお互いの心を癒やして、祖父は私が今、アーティストとして価値を生み出し、それを世の中に還元していることを認めてくれたんだと思います」
ここ15年ほどのテクノロジーの進化は、彼女の暮らしにも大きな変化を与えたという。
「今の私は2008年の頃とは違って、アートからの収入のみで自分の暮らしを維持できています。それは本当にありがたいことで、テクノロジーのおかげで私のアートのファンベースは、グローバルに拡大しました。以前の私の活動範囲は、米国の大都市のギャラリーに限定されていたけれど、最近ではシンガポールやバリ、スペインを訪れて現地のファンや関係者と交流を深め、夏には東南アジアに行く計画を立てています」
ニコールは今、彼女のアートのコレクターであるシンガポールの投資家の依頼を受けて、祖父が住むオマハで個展を開くことを検討している。バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイが毎年春に開催する株主総会は、人口50万人足らずのオマハの街に、世界中から4万人もの投資家が押し寄せる大規模なイベントで、一部では「資本主義のウッドストック」とも呼ばれている。
ウォール街のヒッピー
1000億ドル(約13.8兆円)を超える資産を持つ世界6位の富豪であるバフェットは、今もなおオマハの中流家庭が住むエリアに建つ、1958年に3万1000ドルで購入した平凡な家で暮らしている。「祖父にとって投資は、大金を得て派手な暮らしを送るためのものではありません。彼はただ、NBAのバスケットボール選手が、最高のプレイをしたがるように、株式市場で最高のパフォーマンスをあげたいと思っているだけなんです。ビジネスマンというよりは、アーティストに近いのかもしれない。さらに言うと、祖父はウォール街のヒッピーなのかもしれません。それは、世間の既存のルールに縛られない自由でクリエイティブな考え方をする人だという意味で」
アートと金融という全く異なる世界に身を置きつつも、ニコールと祖父との間には、相通じる思いがあるのだろう。その思いがバフェットに、孫に宛てたEメールを書かせたのかもしれない。
「私たちは、今また振り出しに戻ったんだと思います。たくさんのことを学んだ後に、スタート地点に戻ってきた。パンデミックを通して私たちが学んだのは、お互いの存在や人生、そして健康であることを当たり前だと思ってはいけないということです。本当に価値がある物は何なのかを、考えるべき時期に来た。だから、今は本当に大きなリセットが来たと思っています」
グレートリセットは、彼女の人生にもやってくるかもしれない。