アート

2023.05.26

ウォーレン・バフェットの孫が語る、祖父との和解とNFTの価値

ニコール・バフェット(Photo by Joshua Sauceda / Outer Edge)

ロサンゼルス在住の画家のニコール・バフェット(46)は昨年4月、生まれて初めての祖父からのEメールを受け取った。今から約15年前のある事件をきっかけに、二人の間には距離が生まれたが、「元気でやっているようで嬉しいよ」という彼からの便りは心に響いたし、あの当時はまだアルバイトで生計を立てる貧乏画家だった自分の、長年の努力が報われた気もした。

そのメールの末尾に “ウォーレン”と記した人物こそ、「投資の神様」として知られるウォーレン・バフェットだ。今年で93歳になるバフェットは、割安な株を長期保有する投資スタンスで知られ、ビットコインを「価値のない妄想」と呼んでいる。

一方、孫のニコールはここ数年、デジタルデータに希少価値を持たせ、暗号資産で取引可能にしたNFTアートの画家として注目を集めている。

「近い将来、祖父と会うとしたら暗号資産やNFTの魅力について話したいと思います。アートと金融とブロックチェーンの組み合わせは、私たちを新たな世界に連れて行ってくれると思うから」

3月下旬にロサンゼルスで開催されたNFTのイベント「Outer Edge(旧NFT LA)」で取材に応じたニコールは、祖父との再会を望む気持ちをそう語った。10代の終わりから画家として生きてきた彼女が、NFTの世界に足を踏み入れたのは、パンデミックがきっかけだった。2021年初頭に絵の展示会がすべて中止になったとき、音声SNSのクラブハウスのイベントでこの分野の著名インフルエンサーと知り合い、デジタルの可能性に気づいたという。

「これまで紙に描いてきた作品を、NFTにして、その価値を再認識させるというアイデアに魅了されました。アートという資産は金銭的な価値を持つと同時にスピリチュアルな価値を持っています。もしも祖父に会ったら、そんな話をしてみたい。過去のことは、過去にとどめたままにして」

祖父バフェットとの間に生まれた亀裂

世界の金融業界をリーマンショックが襲った2008年12月、「億万長者の黒いひつじ」と題された彼女のインタビュー記事が米国版「マリ・クレール」のサイトに掲載された。ニコールと祖父との関係に亀裂が生じたのは、その2年前に公開された「The One Percent」というドキュメンタリー映画がきっかけだった。

人口の1%の富豪が、米国の富の40%を所有する不公平に焦点を当てたこの映画に、当時30歳だったニコールは年収4万ドルで生計を立てるヒッピーの画家として登場した。彼女は、サンフランシスコの質素なアパートの一室でお香を焚き、「南無妙法蓮華経」のお経を唱え、瞑想の効用を説いた後に、自身について語った。

「私はアートスクールを卒業するまでの学費と生活費はすべて、バフェット家に負担してもらいました。でも、それ以降は一切、金銭的な援助を受けていません」、と。


ニコールは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの共同創業者のひ孫のジェイミー・ジョンソンが2006年に発表したドキュメンタリー映画「The One Percent」に出演。その当時年収4万ドルで暮らす貧乏アーティストだった自身の暮らしぶりを赤裸々に語った

祖父を批判するつもりは全く無く、「私はとても恵まれていると思います」とカメラに語ったが、この映画への出演と、その後のテレビ番組での発言がバフェットの怒りを買い、彼女は勘当された。それ以来、祖父が年に何度かくれる手紙の署名は、“グランパ(おじいちゃん)”ではなくウォーレンに変わった。


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取材・文=上田裕資

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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