AIは人間を超えることができない?
30代半ばで一旦仕事を離れてカリフォルニア大学バークレー校でコンピュータ・サイエンスや人間工学を学び直したウォズ。その時、「人はどうやってモノを認識するのか?」いわゆるインターフェースを徹底的に研究したといいます。「使いやすさ」から始まり「使った人が本当に幸せを感じるだろうか?」さらには「人間とは何か?」までを研究し尽くした結果、人間という存在の奥深さを感じたといいます。その時、「AIが人間と同レベルの知性を獲得する日が来るのか?」というニュースメディアに対して、「現在のAIが、どんなに発展しても、数百年は人間を超えることはできない。人間というものは、そんなに簡単なものではなく、ものすごく奥深いモノなんだ」という彼なりの想いを語ってくれました。
「例えば、自動運転(オートパイロット)の車を例に考えてみましょう」とウォズは語っていました。
「砂利道や、あぜ道もある田舎の道は、自動運転用には作られていない。電車が走る線路みたいなものとは、そもそも構造や基本設計自体が違う。車が走る自然環境や、様々な形状の道路は、コンピュータ用に最適化されて作られていない。だから、完全なる自動運転に全てが切り替わる、なんてことはない。同じように、AIも自然の人間に完全に代わるような基本設計になっていない」と力強く語っていたことを思い出します。
確かに、ChatGPTは、大量の言葉を生成できるビッグデータを備えているので、一見ほぼ人間の頭脳を有していると思われがちですが、例えば、数学的な計算の思考を持ち併せておらず、1+1=2といった回答を算術では導き出せない。感情を表現する時、人間なら落胆や不安のあまり、お腹が痛くなったり肩を落としたり物理的な変化を伴いますが、ChatGPTは、言語で返ってきます。つまり「あくまで言語モデルなんだ」という事実を忘れてはいけないわけです。
ウォズは言っていました。「私は、世界で最もコンピューターというものを理解している人間の一人だと思う。そして、人間や人間工学についても大学で探求してきた。その僕がいうのだから、間違いないと思っている。当面の数百年、AIは人間を超えられない。だからAIの出現で職が奪われるといった心配は無用だし、そこが論点ではない」とウォズは断言していました。