ロシアの巻き添えを食う欧州
ウクライナ侵攻を巡っては、新興国は欧米と意見を異にしている。最近の例では、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領が先月、中国を訪問した際に再び和平協議を呼び掛けた。同大統領は、侵攻につながったミンスク合意の破棄について、ウクライナと西側諸国がともに責任の一端を負っているとの見解を示した。欧米のウクライナへの軍事支援や財政支援は今後も続くとみられる。ウクライナの再建には約5000億ユーロ(約76兆円)が必要になると見積もられているが、これはウクライナがIMFや欧州復興開発銀行(EBRD)、米政府からこれまでに受けた支援の何倍もの規模になる。
世界銀行によると、ウクライナのGDPは2000億ドル(約27兆円)程度とされているが、このお金がどこに行くかは誰にもわからない。ウクライナのような国を長年見てきた人なら、その行き先を想像することができるだろう。
ドイツの哲学者で作家のオスヴァルト・シュペングラーは、1918年に『西洋の没落』を著し、2000年までに既存の秩序が崩壊すると予言した。シュペングラーは、欧州に権力エリートが台頭することを予言し、これを「カエサル主義」と呼んだ。これは、プーチン大統領のロシアや今日の中国共産党のような独裁的な政府のようなものなのかもしれない。マクロン大統領が中国訪問中に呼び掛けたように、欧州が自国の外交政策と軍事力を大切にしなければ、中国を中心とした新興国が欧米の軌道から徐々に離れていく中で、シュペングラーの見解が現実のものとなる可能性もある。
欧州は、政策決定者が注意しなければ、欧州全体の大量破壊戦争に火をつけかねない事態に直面している。現在のところ、欧米はウクライナを支援し続けているが、新興国の首脳らは、それが自国の将来にとって負の影響をおよぼすとみている。欧州が弱体化する(あるいは戦争で荒廃する)と、ブラジルや中国の事業や雇用市場にも悪影響がおよぶためだ。
英経済誌エコノミストの調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニットが発表した報告書によると、ウクライナ侵攻の影響を最も強く受けているのは東欧諸国だ。西欧は「状況をうまく切り抜けている」が、金利が上昇し、成長が横ばいになっている中、このままで良いのだろうか?
誰もが、この侵攻はロシアにとって費用がかさみ、ウクライナにとって致命的なものになると予想していた。ところが、ウクライナ侵攻によって、欧州も驚くほど高い代償を払うことになった。
紛争が早期に終結すれば欧州の勝ちだ。だが、紛争が長引けば欧州の負けとなる。紛争が長引けば長引くほど、欧州にとっては痛手となり、欧州が一方的にどうにかできることはほとんどないように思われる。
(forbes.com 原文)