経済

2023.05.08

ロシアの侵攻で欧州の分断が加速 ウクライナの再建には約76兆円

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崩れゆく絆

ナイジェリアの作家チヌア・アチェベは1958年、小説『崩れゆく絆』を執筆した。それは欧州の植民地主義と、それが先住民の社会にもたらした分断に関する作品だ。端的に言えば「絆が崩れていった」のだ。欧州では今、こうしたことが起きており、政治的な分断が進んでいる。

欧州の移民問題は解決の糸口が見えず、社会経済的負担として重くのしかかっている。難民救済に向けた募金活動を行う世界的な非政府組織(NGO)の国際救済委員会(IRC)によると、少なくとも800万人のウクライナ人が紛争で祖国を離れ、その大半が近隣のポーランドやモルドバ、ルーマニアに移動した。

政治が経済を圧迫し続け、少子化が進み、高い税金や過剰な規制、製造業の労働基盤の弱さ(年金の支給開始年齢の引き上げを巡ってフランスで起きた抗議運動など)により、2008~21年にかけて、欧州では1人当たりのGDPが相対的に横ばいになり、社会が不安定化した。フランスやハンガリー、イタリアでは、国際化に反対するEU懐疑派が台頭していることが最近の調査から明らかになった。国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウオッチによると、ドイツでは今年、人種差別に起因する憎悪犯罪が16%増加し、反ユダヤ人犯罪は29%増えている。

英シンクタンク「欧州外交評議会(CFR)」が先月11日に開いた講演会では、開かれた民主主義としての欧州の未来がテーマとなった。CFRの会員で米スタンフォード大学教授のフランシス・フクヤマは、欧州の民主主義の状況について意見を求められた際「全体的に芳しくない」と答えた。

民主主義と経済は別物だが、欧州の政治的な対立は、政治と経済双方の情勢に関わる問題だ。ウクライナ侵攻は、時が経つにつれて欧州の分断に拍車を掛けるだろう。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は最近、中国に同調し、米国とドイツがウクライナに戦車を送ることに反対して和平協議を呼び掛けた。

ウクライナ侵攻が欧州にもたらしたものは、他に何があるだろうか? いうまでもなく、インフレだ。EU統計局によると、EUでは2月、食品価格が前年同月比で19.06%上昇した。これに対し、米労働統計局(BLS)によると、米国の3月の食品価格上昇率は8.5%と、2月の9.5%より減速し、年率換算でピークを迎えた昨年8月の11.4%からも落ち着いている。

ユーロ圏の2月の鉱工業生産は前月比1.5%増となり、昨年の厳しいエネルギーの消費制限を受けた製造業が営業を再開したことで、産業部門が回復に向かっていることが見て取れた。他方で、ユーロ圏の2月の小売売上高は、フランスで購買力が弱まっていることと、消費者信頼感指数が低下していることから、0.8%減少した。
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翻訳・編集=安藤清香

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