スポーツ

2023.05.03

J2で何が起きた?「4月の大誤審」それぞれの立場の正義と課題

なぜゴールが認められなかったのか。photo by Masashi Hara Gettyimages

この告白が試合中、しかも問題のシーンの直後だったらどうなるのか。審判団が判定する上での原理原則をあらためて持ち出しながら、前出の東城氏は「選手の言葉を信じる、信じないという話ではなくて」と断りを入れた上で次のように語っている。

「やはりレフェリーがしっかり把握できていなければ、いわゆる自己申告があったとしても、それによって得点など何か違う事象を認める判定はできないと考えています」

 それでも「誤審」としない意図

後半も0-0のまま進んでいった試合は、試合終了間際に待望の先制点をあげた秋田が劇的な勝利をあげた。そして秋田は時間を置かずして、クラブの公式HP上で「4.8町田戦で起こった事象に関してのお願い」と題した声明を掲載している。一部を抜粋する。

「J2リーグにはビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)やゴールライン・テクノロジー、追加副審といった仕組みが導入されていない以上、本状況下(立ち位置や距離など含め)において審判団のノーゴール判定は、否定されるものではないと考えております。(中略)サッカーファミリーの皆様におかれましては、フェアプレーの精神の下、審判団の判定を尊重し、審判員や相手チーム・選手への批判や誹謗中傷は行わないよう、お願いいたします」(原文ママ)

実際に秋田は物議を醸したシーンの直後も、吉田謙監督以下のコーチングスタッフ、リザーブの選手たちのほぼ全員が抗議せずに、目の前の現実を受け入れている。審判委員会の扇谷委員長は秋田側に電話を入れ、事情を説明しながら今後の方針も伝えている。

もっとも、同委員長はブリーフィングの最後まで「誤審」とは公言していない。

サンフレッチェ広島対北海道コンサドーレ札幌のJ1開幕節で広島のゴールが見逃され、0-0の引き分けに終わった直後の2月下旬には緊急ブリーフィングを開催。担当審判団に誤審があったと公表した際と何が異なっているのか。扇谷委員長が続ける。

「VARを使っている日本サッカーの試合で、VARで認識できることをできなかった、というのが前回の事象です。今回の事象も、もちろんゴールに入っているものを判定できなかった。ただ、何をもって誤審とするのか。誤審の定義というのは私にはわからない。それを言えば誤審かもしれないけれども、ただ今回の審判団が置かれている状況は、実際には前回とかなり大きな違いがあるというのは私としての考えです」

審判団をはじめとしてJリーグの野々村チェアマン、ウィリアム、秋田、そしてJFAの審判委員会と、それぞれ異なる立場や思い、考え方などが反映されたリーダーシップが、明らかなゴールが見逃された今回の一件をめぐる過程で発揮された。

ウィリアムがインスタグラム、秋田が公式HPで発表したように、今回の事象は誰も責められないだろう。敵味方や審判団の垣根を超えて、その場にいた全員の虚を突いた青木のアイデアと視野の広さ、シュートの正確さに導かれた特異な事象といっていい。

 ただ、誤審の認識があるのかとメディアから問われ、誤審の定義はわからないと返した扇谷委員長の発言は、他のリーダーシップとネガティブな意味で一線を画すのではないか。

自分たちからはコメントできない審判団を、守るべき立場も理解できる。しかし、ウィリアムがプロ選手の立場から、不利益を被りかけた秋田がフェアプレー精神から際立つリーダーシップを発揮しただけに、画竜点睛を欠いたコメントが残念でならない。

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