スポーツ

2023.05.03

J2で何が起きた?「4月の大誤審」それぞれの立場の正義と課題

なぜゴールが認められなかったのか。photo by Masashi Hara Gettyimages

「町田対秋田の試合において、本来得点として認めるべきものが認められない、という事象が起こりました。映像から見ると、われわれとしても『得点している』ということに関しては認めなければいけないと思っています。チームにとって大切な1点を失ったことに関しても、やはり大きな責任を負うと感じております」

誰が見てもゴールを見誤った。この前代未聞の事象はなぜ起こったのか。

J1リーグ戦とは異なり、J2およびJ3リーグ戦はVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されていない。これが何を意味するのか。問題の試合を担当していた4人の審判団、要は主審と2人の副審、第4審判の誰かがゴールを認める必要があった。

シュートの瞬間、山本雄大主審はその右斜め後方、秋田の陣内にいた。ポジショニングは間違っていない。しかし、50m以上も先で起こった事象を、平面とほぼ同じ視野で見極められるかどうか。答えはノーと言わざるをえない。

加えて、山本主審の前方にいた町田および秋田の複数の選手に隠れる形で、ゴールキーパーまでの視界が遮られていた可能性もある。レフェリーブリーフィングでは、ボールがゴールラインを割ったかどうかの判断は副審が担うと説明している。

しかし、あくまでも一般論であり、この場面では特異な事情も生じていた。

副審は原則として、オフサイドラインに合わせて「タッチライン際のポジションを上下動させる」。しかし、シュート時にオフサイドラインだった町田のDFカルロス・グティエレスと自軍のゴールまでの距離も30mほど開いていた。

必然的に副審も、DFグティエレスの位置に合わせてポジションを取っている。そして、シュートに合わせて、町田ゴールへ向けてフルスプリントを開始した。ブリーフィングに出席した審判委員会審判マネジャーの東城譲Jリーグ統括担当が言う。

「こうした事象の場合、副審の心理としてはどうしても真横から、要はゴールライン上で見たい。例え状況的に無理だとしても、できる限りゴールラインに近づきたい。そのためにはトップスピードでゴールに向かう動きを意識する。しかし、トップスピードで動けば必然的に動体視力が低下するし、視野そのものも狭くなってしまう。結果として最も見たいもの、ゴールインか否かが見にくくなってしまう。副審の心理として、こういったものがあるという点をご理解していただければと考えております」
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